ちかごろの神官さまはまったく元気がありません。 僕の知るかぎり、太陽神殿の神官であらせられるルネ・ド・ヴジョー伯爵は、めったなことではため息などつかない方でした。 少なくとも、僕が見習いとしてこの神殿に寝起きするようになってこの三年、あんなに苦しそうなお顔をされるのを見たことがなかったと思います。 表向きはいつものように振る舞っておいでですが、僕たちに気を遣い、こっそりと人目にたたないところで吐息をついているお姿には、暗澹たる気持ちになります。 そんなときは、光り輝くような純白の式服でさえ、心なしか灰色がかって見えるのです。 火の消えたよう……とはまさにこういう時につかう言葉かと、聖なる炎を見守りながら、僕もうっかり肩を落としてしまいました。 もしかすると、なにか重いご病気に罹っているのではないでしょうか。 神官さまは医術の心得がおありですから、さしでがましいことをいうのは控えていましたが
![第110話 外伝「神官さまの恋」 - 歓びの野は死の色す(磯崎愛) - カクヨム](https://cdn-ak-scissors.b.st-hatena.com/image/square/2af05fd72c34e66c33e89a5352b7bc01c956da23/height=288;version=1;width=512/https%3A%2F%2Fcdn-static.kakuyomu.jp%2Fworks%2F16818023213150466704%2Fogimage.png%3FIHphIiToxvYN8U_FOXEerP0iIJ8)