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ブックマーク / www.aozora.gr.jp (147)

  • 寺田寅彦 津浪と人間

    昭和八年三月三日の早朝に、東北日の太平洋岸に津浪が襲来して、沿岸の小都市村落を片端から薙(な)ぎ倒し洗い流し、そうして多数の人命と多額の財物を奪い去った。明治二十九年六月十五日の同地方に起ったいわゆる「三陸大津浪」とほぼ同様な自然現象が、約満三十七年後の今日再び繰返されたのである。 同じような現象は、歴史に残っているだけでも、過去において何遍となく繰返されている。歴史に記録されていないものがおそらくそれ以上に多数にあったであろうと思われる。現在の地震学上から判断される限り、同じ事は未来においても何度となく繰返されるであろうということである。 こんなに度々繰返される自然現象ならば、当該地方の住民は、とうの昔に何かしら相当な対策を考えてこれに備え、災害を未然に防ぐことが出来ていてもよさそうに思われる。これは、この際誰しもそう思うことであろうが、それが実際はなかなかそうならないというのがこの人

  • 新美南吉 蟹のしょうばい

    蟹(かに)がいろいろ考えたあげく、とこやをはじめました。蟹(かに)の考えとしてはおおできでありました。 ところで、蟹(かに)は、 「とこやというしょうばいは、たいへんひまなものだな。」 と思いました。と申(もう)しますのは、ひとりもお客さんがこないからであります。 そこで、蟹(かに)のとこやさんは、はさみをもって海っぱたにやっていきました。そこにはたこがひるねをしていました。 「もしもし、たこさん。」 と蟹(かに)はよびかけました。 たこはめをさまして、 「なんだ。」 といいました。 「とこやですが、ごようはありませんか。」 「よくごらんよ。わたしの頭に毛があるかどうか。」 蟹(かに)はたこの頭をよくみました。なるほど毛はひとすじもなく、つるんこでありました。いくら蟹(かに)がじょうずなとこやでも、毛のない頭をかることはできません。 蟹(かに)は、そこで、山へやっていきました。山にはたぬき

  • イワン・ツルゲーネフ Ivan Turgenev 二葉亭四迷訳 あいびき

    このあいびきは先年仏蘭西(フランス)で死去した、露国では有名な小説家、ツルゲーネフという人の端物(はもの)の作です。今度徳富先生の御依頼で訳してみました。私の訳文は我ながら不思議とソノ何んだが、これでも原文はきわめておもしろいです。 秋九月中旬というころ、一日自分がさる樺(かば)の林の中に座していたことがあッた。今朝から小雨が降りそそぎ、その晴れ間にはおりおり生ま煖(あたた)かな日かげも射して、まことに気まぐれな空ら合い。あわあわしい白ら雲が空ら一面に棚引くかと思うと、フトまたあちこち瞬く間雲切れがして、むりに押し分けたような雲間から澄みて怜悧(さか)し気(げ)に見える人の眼のごとくに朗(ほがら)かに晴れた蒼空がのぞかれた。自分は座して、四顧して、そして耳を傾けていた。木の葉が頭上で幽(かす)かに戦(そよ)いだが、その音を聞たばかりでも季節は知られた。それは春先する、おもしろそうな、笑うよ

  • 芥川龍之介 続文芸的な、余りに文芸的な

    一 「死者生者」 「文章倶楽部」が大正時代の作品中、諸家の記憶に残つたものを尋ねた時、僕も返事をしようと思つてゐるうちについその機会を失つてしまつた。僕の記憶に残つてゐるものはまづ正宗白鳥氏の「死者生者(ししやせいしや)」である。これは僕の「芋粥」と同じ月に発表された為、特に深い印象を残した。「芋粥」は「死者生者」ほど完成してゐない。唯幾分か新しかつただけである。が、「死者生者」は不評判だつた。「芋粥」は――「芋粥」の不評判だつたのは吹聴(ふいちやう)せずとも善い。「読後感とでも云ふのかな。さう云ふものの深い短篇だね。」――僕は当時久米正雄君の「死者生者」を読んだ後、かう言つたことを覚えてゐる。が、「文章倶楽部」の問に応じた諸家は誰も「死者生者」を挙げてゐなかつたらしい。しかも「芋粥」は幸か不幸か諸家の答への中にはいつてゐる。 この事実の証明する通り、世人は新らしいものに注目し易い。従つて

  • 芥川龍之介 文芸的な、余りに文芸的な

    一 「話」らしい話のない小説 僕は「話」らしい話のない小説を最上のものとは思つてゐない。従つて「話」らしい話のない小説ばかり書けとも言はない。第一僕の小説も大抵は「話」を持つてゐる。デツサンのない画は成り立たない。それと丁度同じやうに小説は「話」の上に立つものである。(僕の「話」と云ふ意味は単に「物語」と云ふ意味ではない。)若(も)し厳密に云ふとすれば、全然「話」のない所には如何(いか)なる小説も成り立たないであらう。従つて僕は「話」のある小説にも勿論尊敬を表するものである。「ダフニとクロオと」の物語以来、あらゆる小説或は叙事詩が「話」の上に立つてゐる以上、誰か「話」のある小説に敬意を表せずにゐられるであらうか? 「マダム・ボヴアリイ」も「話」を持つてゐる。「戦争と平和」も「話」を持つてゐる。「赤と黒と」も「話」を持つてゐる。…… しかし或小説の価値を定めるものは決して「話」の長短ではない

    florentine
    florentine 2009/10/14
    大量のタグをつけたくなるが、コレだけ/↑え!? そ、そ、それは……なんともはや……。教えてくださってありがとうございます。そうかあ、そうなのかあああ……
  • 芥川龍之介 藪の中

    さようでございます。あの死骸(しがい)を見つけたのは、わたしに違いございません。わたしは今朝(けさ)いつもの通り、裏山の杉を伐(き)りに参りました。すると山陰(やまかげ)の藪(やぶ)の中に、あの死骸があったのでございます。あった処でございますか? それは山科(やましな)の駅路からは、四五町ほど隔たって居りましょう。竹の中に痩(や)せ杉の交(まじ)った、人気(ひとけ)のない所でございます。 死骸は縹(はなだ)の水干(すいかん)に、都風(みやこふう)のさび烏帽子をかぶったまま、仰向(あおむ)けに倒れて居りました。何しろ一刀(ひとかたな)とは申すものの、胸もとの突き傷でございますから、死骸のまわりの竹の落葉は、蘇芳(すほう)に滲(し)みたようでございます。いえ、血はもう流れては居りません。傷口も乾(かわ)いて居ったようでございます。おまけにそこには、馬蠅(うまばえ)が一匹、わたしの足音も聞えない

  • 作家別作品リスト:ダンテ アリギエリ

    公開中の作品 ありとあらゆるわが思 (旧字旧仮名、作品ID:55219)     →上田 敏(翻訳者) あはれ今 (旧字旧仮名、作品ID:55224)     →上田 敏(翻訳者) 歌よ、ねがふは (旧字旧仮名、作品ID:55220)     →上田 敏(翻訳者) きその日は (旧字旧仮名、作品ID:55221)     →上田 敏(翻訳者) 神曲 01 地獄(旧字旧仮名、作品ID:4618)     →山川 丙三郎(翻訳者) 神曲 02 浄火(旧字旧仮名、作品ID:42184)     →山川 丙三郎(翻訳者) 神曲 03 天堂(旧字旧仮名、作品ID:4820)     →山川 丙三郎(翻訳者) 泣けよ恋人 (旧字旧仮名、作品ID:55223)     →上田 敏(翻訳者) びるぜん祈祷 (旧字旧仮名、作品ID:55225)     →上田 敏(翻訳者) 忌々しき「死」の大君は (旧字旧