9月末の日暮れ時、香港・金鐘の政府庁舎前でデモ隊が火炎瓶や石を投げる様子を写真に収めていると、警察の放水車がバリケードで囲われた敷地の際まで乗り出してきて放水を始めた。「強制排除が始まったな」。そう思い撮影を続けていると、放水銃が上を向いた次の瞬間、少し離れた高架にいる記者(田中)の周りにも、「青い水」が雨のように降り注いだ。 違法デモの参加者を見分けるために着色すると聞いていたので「ああ、やられた」くらいの気持ちだったが、すぐ異変に気がついた。腕や首に刺すような痛みが出始めたのだ。顔全体を覆う簡易ガスマスクをしていたのが幸いした。横目で見た男性は激しくせき込み、座り込んでいた。 現場を離れてウエットティッシュで拭いても全く落ちず、痛みは強まる。どこかの記者に写真に撮られても、構っていられない。取材をあきらめて地下鉄でホテルに戻る途中、見ず知らずの男性が「大丈夫ですか?」と腕を拭いてくれた