このところ、写真の修整をめぐる議論が盛んだ。写真編集ソフトのフォトショップや、露出の異なる複数の写真を合成処理するハイダイナミックレンジ・イメージング(HDRI)などの手法を用いることの是非については、私も考えさせられることが多かった。写真の見せ方の問題について、また写真に手を加えることの問題について、この場を借りて議論してみるのもいいかもしれない。 現実を何らかの形で表現するとき、そこには常に「芸術的な自由」が入り込む。写真に手を加えることは、写真そのものと同じくらい古い歴史がある。たとえば19世紀のフランス人写真家ギュスターヴ・ル・グレイは1850年代、複数のネガを1枚の印画紙に複数回露光して画像を合成し、1枚の写真を作り上げた(作例)。それより前の時代でも、絵画や木版画、詩、文章などで現実を表現しようとするとき、そこには作家が実際に体験した「現実」と同じくらい作家の「想像力」が反映さ