photo by Alfredo Mendez 「豊中市浜5丁目378番地へ行ってください」 後部座席の少年は、たしかにそう言った。 半ズボンをはいた少年は小学校高学年に見える。前髪を一直線に切りそろえて、どこか昭和の香りがした。 奇妙だった。 少年を拾ったのは、高速の下を走る幹線道路で、夜の9時半という暗闇の中にひとり、手を挙げていたのだ。 「わかりますか?」 「わかるとも。けど、なんで、古い番地で?」 少年はその問には答えず窓の外を見た。 知らないはずがない。そこは私が育った実家があった住所だし、55年間の人生の旅路を巡ったあとでもなお、本籍地として記される住所だからだ。ただし、そんな番地を使ったのは何十年も前の話で、本籍地として使う場合以外は、「15の7」と言うのが普通だ。 ともかく、私は後部座ドアを締めて、賃走のボタンを押した。 少年は布のトートバックを抱えている。時間から考えて