最果タヒ。詩人という肩書きを手にしてから12年が経過していた。 私は本に救われたことがない、ということをコンプレックスに思い続けた12年間だった。詩を書くことを生業にしてから、一緒に仕事をする人たちは、そのほとんどが本を愛し、そして過去に本に救われたことのある人たちだった。本を作れば、本を手に取ってくれた人の感想や、書店員さんの声を聞くこともできる。そうした人たちが、本をどれほど大切なものと捉えているのか、知れば知るほど憧れてしまった。 憧れる、ということは、私にとってその「思い」は自分の外側にあるものなのだろう。そう思うと、不安だ。私にはそんな経験がない、本に救われたことがない、それなのに、こうして本を作っている。いいのだろうか? 本は好きだけれど、特別視しているとは断言できないでいた。 書くことがずっと好きだった。それは、ちいさなころからずっと。落書き帳は絵ではなく文字で埋まっていた。