20世紀には「グルメ漫画」がこれほどの一大ジャンルになるとは想像していなかった。 料理人対決、食べ歩き、素人の家庭料理もの――今やどれをとっても料理の分野やシチュエーションが細分化し、多彩を極めている。近年は家族や友人との絆と食を関連づけた作品が増えた一方、「ひとり飯/ひとり飲み」を肯定的に描く作品が多いことには時代の空気を感じる。 それでもすべてに共通するのは、「おいしい=幸せ」という感情が描かれることだった。 だからこそ、食べることの「やっかいさ」にフォーカスした『鬱ごはん』(施川ユウキ)は数あるグルメ漫画の中でも異色中の異色作なのだ。 主人公の鬱野たけしはフリーター。友人がなく一人で行動するのが常だ。食べることが嫌いなわけではなく、彼なりに「今の気分」に合う食べ物を選ぼうという意思はある。だが、予算は潤沢ではないし、自炊は気が向いたときにしかやらない。ファミレス、ファストフード、牛丼