作家のいとうせいこうが、読者によって内容を変えるパーソナライズ小説『親愛なる』を刊行した。名前や住所など購入時に入力した個人情報を元に、世界に1冊だけの本をつくる仕組みだ。「源氏物語の時代、本は1点モノだった。最新技術を使って、『私だけの物語』という、うっとりする感覚を取り戻したい」 パーソナライズは、ネット上での検索・購入履歴などを参考に、通販でおすすめ商品を表示したり、個人に最適化したニュース記事を配信したりする技術で、近年注目を集めている。出版界では名入れ絵本などの例があるが、小説に活用するのは珍しい。 『親愛なる』は元々『黒やぎさんたら』というタイトルで1997年にメール配信小説として発表された。主人公の作家に届いたメールから物語が展開し、小説内でもう一つの小説が始まるメタフィクションだ。当時からパーソナライズを導入し、読者によって異なる内容のメールを送っていたという。 いとうの手