■テクストという名の宇宙 私は大西巨人の長い年月の上での読者ではない。つい7年前になぜか代表作を集中的に読むことになり、あとから考えれば大きな影響を受けていた。そういういわば新しい読者として、幾つかのおすすめを書かせていただきたい。 当然『神聖喜劇』は避けて通れない。著者のまぎれもない代表作で、全4700枚が20年以上をかけて書かれている。 驚くべき記憶力と該博な知識を持つ主人公・東堂太郎二等兵が、陸軍の中で軍隊の理不尽さと戦っていくのだがそのようなあらすじを書くことは虚(むな)しい。 徹底的な細密描写、東堂が述べ立てる法律の条項、漢詩、喚問での発言記録、他文学作品からの正確な引用などなど、ありとあらゆる性質のテクストが作品を推進していく。それはきわめて複雑に構成されている。 ああ、これはもうテクストという名の宇宙なんだなと思って存分にその世界に没入する以外ないのだが、だからといって文学至
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