「サッカーがまるで生死をかけた大事だとわめき立てる輩がいるが、まったくあれはどうかと思うね」と、リヴァプールFCを強豪に育て上げた伝説の監督ビル・シャンクリーが生前にそう語ったことがある。続けて彼は、こう補足した。「”生死をかけた”なんて安っぽい言葉とは真逆の、真剣勝負の場なのだからね」 フェラン・アドリアとアルベルト・アドリア。分子ガストロノミーという科学的調理法を芸術の域にまで高めて料理界の頂点を極めたレストラン「el Bulli(エル・ブジ)」を陣頭指揮してきた兄と、その片腕としてフェランを支え続けた弟。この兄弟がバルセロナを舞台に取り組んでいる新たな事業について語るにあたり、脳裏をよぎったのがビル・シャンクリーのあの言葉だ。美食と饗応という難敵とがっぷり四つに組むアドリア兄弟の奮闘ぶりには、“生死をかけた”などという常套句では表現し得ない真剣さがあるからだ。 メロンのキャビア─そん