「武ちゃん、ここはしばらく暇だから外に出てきたら」 「綾ちゃん、ありがとう。書生さんをお供にしてもよろしいかしら。浅草辺りでお芝居でも見てこようと思うの」 「それよろしいわね。気分転換にはもってこいでしょう」 外出用の着物に着替えて、書生さんを連れて浅草に向かった。外に出るとここは海の香がする。上州は海から遠い。この空気を吸うことすら別世界に来た感じだった。 浅草に着くと芝居小屋に向かった。特に贔屓の小屋とか役者がいるわけでもないので、人が多そうなところにした。子供の幸せのため、親子が名乗ることもできず、別離を選ぶという演目だった。多少違うとは言っても、身につまされるセリフが多くて、話が入ってこない。ここは失敗だったなと思ってしまった。 隣から鼻をすする音が聞こえて、チラと見たら、顔に大きな傷痕のある書生風な殿方が、座っていた。かなり泣いているようで、そちらのほうが気になってしょうがなかっ
![第4話 築地梁山泊 - 凛と花咲くには 〜武子の恋〜(瑞野 明青) - カクヨム](https://cdn-ak-scissors.b.st-hatena.com/image/square/f426602674e34273ab0f14244453c70d902901f6/height=288;version=1;width=512/https%3A%2F%2Fcdn-static.kakuyomu.jp%2Fworks%2F16817330650334197034%2Fogimage.png%3Fd13wMEHi2EJXOmGAW94zo6p68iU)