長谷川伸は義理人情を描く股旅物作家として一般には知られているが、その作品や思想は戦後の風潮のなかで忘却された。しかし、近年、世の中に変化の兆しが見える。経済効率という名のもとに、社会からドロップアウトした若者たちがふえ始めると、彼らの生きるよすがとか、絆とかいった問題がクローズアップされてくる。時代の風向きがすこし変ってきたようなら、ここらでもう一遍、昔からの日本人特有の地域的な道徳律、たとえば〈義理人情〉といったものについて、考え直してみるのもどうか、そんな思いがみんなの心のなかに生じてきている。 本書の著者は宗教学、思想史を専門とする碩学である。日本人とは何か、という年来のテーマを踏まえ、その関心の及ぶところ親鸞から美空ひばりにまで至る。それだけに今回執筆の対象に取り上げた長谷川伸は、作家論というより日本人論の根幹をなす恰好の素材であったに違いない。 長谷川伸は幼少の頃、両親に棄てられ
![『義理と人情―長谷川伸と日本人のこころ―』 山折哲雄 | 新潮社](https://cdn-ak-scissors.b.st-hatena.com/image/square/912a67a36cbcd3a303d4679292ce4749eb9a7bec/height=288;version=1;width=512/https%3A%2F%2Fwww.shinchosha.co.jp%2Fimages_v2%2Fbook%2Fcover%2F603689%2F603689_xl.jpg)