コロナ対策をめぐって、世界では奇妙な現象が生じている。ヨーロッパのリベラル民主主義の国々が、右派ポピュリストばりの国境封鎖・都市封鎖を行い、市民行動の監視をするようになっているのだ。疫学的な見地からすれば、断固とした措置が必要である。とはいえ、果たして、都市封鎖と監視は倫理的に正当化されるのだろうか。この危機の時代に何を犠牲にしないといけないのか。マルクス・ガブリエルは言う。これは科学信奉だけでは答えはでない問題だと。この点についても、『未来への大分岐』でガブリエルは指摘していたが、倫理学で言う「トロッコ問題」に世界はまさに直面しているのだ。以下は、Neue Zürcher Zeitung というスイスの新聞にガブリエルが寄稿したコラムの翻訳である。前回の寄稿とともにお読みいただきたい。 斎藤幸平(『未来への大分岐』編著者) ◆緊急事態―都市封鎖は正当化できるのか? 新たな掟が発令されてい