◇羅漢山から始まる物語◇ 物語は、飯能市の羅漢山(今の天覧山)から始まる。標高は197メートル。登ると15分足らずで頂上に着いた。岩の上に、コンクリート製の展望台がそびえる。 「美しい星」の主人公、飯能一の材木商一家も空飛ぶ円盤を見ようと頂上まで登った。宇宙人だという意識に目覚め、地球救済に向けて家族の団結力を増すためだという。 展望台から見る景色は、今も「美しい星」を発表した62年ごろの面影を残している。展望台の北側は行幸記念碑とその背後の森にかこまれている。南側は二、三のくねった松や低い叢林のほか、南の空の展望を遮るものは何もない。飯能は起伏の少ない低地が続くせいか、奥武蔵の山々が遠く見渡せた。 飯能は、東京都内から約1時間。当時も、都内の小学校などから子どもたちがよく遠足で訪れていたという。三島由起夫(1925―70)も、飯能駅で降りる若いハイカーたちの描写を盛り込ん