十年ぶりの作品集。飛浩隆はまちがいなく現代SFのトップランナーのひとりだが、いちじるしく寡作だ。考えてみるとこれは凄いことで、ポツポツと発表するだけでその存在を読者の印象に刻みこんでしまう。一篇ごとのインパクトが非常に強いのだ。右に並ぶのはテッド・チャンくらいか。 七篇を収録。最初の一篇「海の指」がもう圧倒的だ。 はじまりのシーンは卓袱台での朝食。日常的情景というよりも、むしろ様式化された(テレビドラマのような)日常だが、そこから視点がうしろへ引かれるにつれて、その日常を包みこむ世界の異様があきらかになる。家を出て路地を進むと、下り坂の先にイスラム風の大門が居座っている。海に面したこの町の斜面に広がっているのは、立体的な蜂の巣状になった建築様式のパッチワークだ。ティカルの碑文神殿、グッケンハイム美術館、ケレタロのサンタ・クララ聖堂、デヴァター像を擁するバンテアイ・スレイ......。原型を
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