アムネジア 作者:稲生 平太郎角川書店Amazon (承前) 「記憶の暮方」と「アムネジア」とはどちらも物語の消失、そして墜落のイメージで幕を閉じる。 一枚の紙、一冊の手帳、一冊の本。 必死になって手を伸ばしても、届かない。つかめない。 記されている文字や記号がちらちらと明滅するけれど、繰り返し墜ちていくうちに、白熱する空間がすべてを灼き消していく。[…] 本当の物語は失われてしまった。あるいは最初から存在しなかった。今回の物語の頁が閉じられるとき、この地上のどこにも戻るべきところなどなく、ただ、同時に天と奈落に向かって繰り返し、繰り返し墜ちていくしかない。ほとんど不可能というところまで目を瞠(みひら)いたが、もはや何も見えなかった。(『アムネジア』 pp.240−241) […]そして十五年後にもう一度見出した空の色は、伝説や文学作品のように親しいものではない。懐かしいものではない。 歓