●セザンヌのすごいと思うところの一つに、あれだけ言語化が困難なことをやっているのに、自分がやろうとしていることを常に間違えない、というところがある。「ブレない」というのは信念の問題ではなく、「やろうとしていることを見失わない(忘れない)」ということだと思う。「自分はこの感じこそを追究したいのだ」という「この感じ」を、言語なり、あるいは他の「外部記憶装置」なりで完全に保存することはできない。「初心忘れるべからず」とは言っても、その「初心のまるごと」をどこに保存しておけばいいのか。しかも、今まで(自分も含めて)誰も十全には表現できていない「この感じ」の表現を追求するのだという時の「この感じ」を、自分自身に対してどう保存できるというか。 行為への努力と没頭のなかでいつの間にか「初心」そのものが変化してしまい、気付けば消えてしまっていたということを、誰もが経験するのではないか。制作に没頭するうちに