cakesは2022年8月31日に終了いたしました。 10年間の長きにわたり、ご愛読ありがとうございました。 2022年9月1日
■博士の社会史 西洋の喜劇的類型の一つに「うっかり博士」あるいは「うっかり教授」と呼ばれるものがある。うっかり下書きの博士論文を提出してしまうことでは、もちろんない。天才的学者なのに、いや、そうであるからこそ、研究に没頭するあまり日常生活ではヘマばかりする博士。超俗の博士は、こうして逆説的に大衆に愛される通俗の人物となる。第1回本屋大賞を受賞した『博士の愛した数式』で小川洋子は、この系譜に連なりつつ淡い悲哀をも備える「博士」像を示したのである。 超俗と通俗の交差は漱石博士号辞退事件にも見られる。1911年2月、漱石は、文部省に対し、これから先も「ただの夏目なにがしで暮(くら)したい」ゆえ、「博士の学位を頂きたくないのであります」と啖呵(たんか)を切った。権威になびかない漱石というイメージはしかし、通俗的だ。 漱石が辞退したのは博士会推薦の博士号で、論文博士号ではない。現在なら芸術院会員とで
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