ノーベル経済学者のポール・クルーグマン米ニューヨーク市立大学教授が、ニューヨーク・タイムズ紙で連載を始めたのは2000年。邦訳が出た近著をもとに足跡をたどってみた。 「評論家稼業は当初の予定には入っていなかった」。『ゾンビとの論争』(山形浩生訳、早川書房、20年7月)はニューヨーク・タイムズに連載中のコラムを中心に、他媒体に書いた文章も加えてテーマ別にまとめた論考集だ。コラム執筆の基本ルール、仕事上の後悔、自身の最高傑作とみる学術論文といった話題もあり、内面がにじみ出ている。 「いまだに、副業でジャーナリストをやっている大学教授のつもりでいる」。世界各地の貿易や産業のパターンを示す学術論文で、研究者としての地歩を固めた。政治や政策とは無縁な内容だったが、1980年代以降、政策への関心と関与を深め、93年のエッセーでは「お気に入りの論文のいくつかは政策に端を発した仕事から生まれた」と記してい