【お知らせ】　大変申し訳ないことですが、今日から入院することになりました。 病院がパソコンの使用禁止で更新ができません。 退院日は未定ですが、退院後に穴埋めをいたします、本当に申し訳ございません。 皆さんも健康にはご留意ください。 この小説はフィクションです、実在とは関係ありません。 「趨勢（すうせい）」　　１２ 梅吉はさっそく動いた、目指すはヤクの売人東野勇である。 馴染みの店を数軒あたったが姿がない。 パクられた、ふと頭をよぎったがそんな筈は無い、 売人のまとめ役をしているだけでは無い、 大阪でも一二の縄張りをもつ売人の頭や。 奴がパクられたらヤク仲間が騒ぎ立てるはずや。 梅吉は作戦を変えた、色気のない東野に女は考えられない。 そうなると酒しかない、奴は中途半端な飲み屋にはいかない。 そうかといって高級料亭に行くわけでもない。 今にも倒れそうな屋台の常連や、 常連と言えども同じ店に入り

この小説はフィクションです、実在とは関係ありません。 「趨勢（すうせい）」　　１１ 「梅吉にここまで言われたら、名取ハンも形無しですな。 そやけど、梅吉の言うてることは正しい思いますで。 あの結末をメディアで聞いた世間の人は、 狐に化かされたような気分になったと思いますで。 それにつけても最近の検察のやることは不起訴ばっかりや。 たまに裁判に持ち込んでも求刑する刑期が 短すぎるきらいが有りますわ。 最近の特捜部なんて、 有っても無かってもええような存在ですがな。 国民からしたら、ただ飯食わしてる心境ですわ」 龍蔵も梅吉に続く、しょげかえる名取に酒を注いでやった。 「あんた個人を責めてもしょうない、 そやけどあれで幕引きですか？ 不祥事が有ったら正直に公表して、 処分せなあかんのと違いますの」 龍蔵の口がおさまりそうに無い。 「言われる通りです、 ただその不祥事も上層部だけの秘密事項になって

この小説はフィクションです、実在とは関係ありません。 「趨勢（すうせい）」　　１０ 「そんでも、捜査のプロが採尿の時に手で隠されてたから よう見えんかった、そんなアホな事が通りますんか？ そこまで追い詰めとって、 詰めの段階で見過ごすそんなこと考えられませんわ。 採尿の際の手順なんかは、 当然初歩教育として教え込まれてるはずや。 検察が不起訴にして釈放するんに 世間に知られとう無いことが有って、 こんな馬鹿げた内容にすり替えて発表したんやと疑いますわ。 それに粘り強い捜査をしたわりには詰めが甘いと思いますで。 そうですやろ、内偵捜査で確信を得て家宅捜査に踏み込んで ブツや注射器なんかを押えたら、 二の口を叩かせん証拠が押さえられると確信してたはずや。 ところがや、ヤクに関連する証拠品は何一つ見つからんかった。どんな内偵捜査してましたんや。 採尿をやったらお茶を入れられたなんて、 漫画でも出

この小説はフィクションです、実在とは関係ありません。 「趨勢（すうせい）」　　9 「売人なら納得できる面もありますが、 ヤク中まで教育を受けてるとはビックリしましたわ。 道理で網にかからんと思てましたんや、 こないだも別件で引っ張ったんやけど、 なんの反応も得られんまま放しましたんや。 奴も言うてましたわ、別件で引っ張るんは構わんけど、 事件でも何でも有りませんがな、 こんなことで一々引っ張られたらかなわんわ。 こんど事件でもない用件で引っ張ったら訴えるで。 こんな返答が返ってきましたんや、 教育を受けてるんを実証してますな」 どうもマトリが空回りしてるようや。 「密売を現行犯で押さえるか、 部屋に覚醒剤を隠してるとこを捜索するしかありませんな」 梅吉が意地悪な答えを返す。 「それができんから一年も二年もかかるんですわ。 最近のことやから皆さんご存知やと思いますが、 やっと身柄を確保して検

この小説はフィクションです、実在とは関係ありません。 「趨勢（すうせい）」　　８ 「そんだけ売人の事も詳しいんやったら、 ミナミの一角を縄張りにしてる東野（とうの）勇を知ってますか？」 名取が酒を注ぎながら質問した。 「東野かいな、奴はもう五十にはなるはずやけど、 儲け頭やから、毎日ええ物食うて酒飲んで悠々自適ですわ。 東野の客は芸能界の客が多いんや。 大阪特有のコテコテ漫才とかの人物もいてますわ」 「……、そうですんや、 わしらマトリが捜査してる中に芸能人が三人いてますんや。 ところがこの三人、なかなか尻尾を現しませんのや。 三人とも東野の客や言う事は分かってます、 東野も一緒に引っ張ったら、裏付け捜査が整いますんや。 それで奴を追いかけるやが、 売人のくせにヤクを売買してる姿は この一年目撃されてませんのや。 昔別件で引っ張ったときが有ったんやが、 誘いをかけてもヤクの話には乗ってこん

この小説はフィクションです、実在とは関係ありません。 「趨勢（すうせい）」　　７ 「それは耳寄りな話ですな、わたしらも長年の捜査で、 ヤク中の人間や売人をマークしてますが、 一部にはわたしらの面も割れてまして 動きにくいことが多々ありますんや。 その点梅吉ハンやったら奴らも気を許してるから動きやすい。 わたしらが梅吉ハンの情報が欲しいくらいですわ」 名取が酒を注いだ。 「それが難しいことも有りますんや。 ワシの立場は、所在がバレた犬ですわ」 「所在がバレた？」 名取が質問する。 「そうですわ、察が暴力団の中に入って 情報を収集するんが察の犬ですわ。 ワシの場合は所在がバレてるから、 完璧な犬には成れまへんのや、 ヤク中の者を更生さすことを考えると、 ヤクの捌（さば）き先を無くされたら、 奴らはオマンマの食いっパクれですからな」 「それやったら、身分をオープンにして、 ヤク中を更生させるなん

この小説はフィクションです、実在とは関係ありません。 「趨勢（すうせい）」　　６ 「マトリが二人いうて、この方もマトリなんですか？」 名取が不思議そうな顔を向けた。 「今年は酉年ですやろ、まともなトリ言う意味ですわ」 龍蔵が笑いながら答えた。 「そうですやろ、近場のマトリは連携することも有るんで、 顔は覚えてるはずやのに、この方は見覚えが有りませんのや」「昔はマトリに追いかけまわされとった男ですわ。 覚せい剤に手を出して、救いようのない男でしたんや。 ひょんな事からこの店で知り合いになって、 放っとけんようになりましてな。 ワシがヤク物に侵された人間の救出に 力を入れ始めた第一号ですわ。 二年ほどかかったけど、見事に立ち直りましたんや。 山田梅吉いうんですけど根は真面目な明るい男や。 今や先頭に立って、 中毒者を見つけ出して更生さす役目をこなしてますんや。 自分がヤク中やったんで、その方面

この小説はフィクションです、実在とは関係ありません。 「趨勢（すうせい）」　　５ 「こうして居酒屋で飲んでても、街ですれ違うても、 ヤクの捜査官やなんて誰も気づきまへんわ。 それに厚生省の職員が、 逮捕権を持ってるなんてほとんどの人が知りませんで。特に名取ハンは若いし男前や、 その名取ハンの懐からワッパが飛び出してきたら、 ビックリするか玩具のワッパやと思いますやろな。 それにしても、お銀は目が高い言うか間抜けいうか、 住吉ハンに彼氏を探しに行って マトリをつかまえてくるんやからな……」 龍蔵がお銀の顔を覗き込む。 「止めてくれる、なんや男に飢えてる女みたいやんか、 そら男前やしエエ人やとは思たで、ただ思ただけや」 お銀が懸命に弁解する。 「龍蔵さんもこんな可愛い人苛めたらアキマセンがな、 お銀さん今後ともよろしくお願いいたします」 丁寧に頭を下げた、慌てたお銀が畳に頭をこすりつけた。 そ

この小説はフィクションです、実在とは関係ありません。 「趨勢（すうせい）」　　４ 「職業がバレたんやから、 お銀のためにも名前を明かしてくれまへんか？」 鉄が運んで来た造りを勧めた。 「マトリに近いんですわ、名取慎吾いいます、歳は三十です」 なぜかお銀が頬を赤らめた。 「捜査官いうたら警察かいな？」 お銀はまだ理解」してないようや。 「麻薬犯罪専従の捜査官や、 刑事や警察官と違うて密性が高いから、 その行動を知ってる人は少ないんや。 麻薬専門の捜査官やからマトリや、 芸能人やスポーツ選手なんかの覚醒剤使用事件が絶えんやろ、 そいつらを捕まえるんに、 辛抱強い内偵捜査の上で逮捕するんや」 龍蔵の説明に名取が口をはさんだ。 「詳しいですな、その関係のお仕事でもなされてましたんか？」 「今話した更生につながる仕事もそうやが、 ここで毎日酒を飲んでると、ヤクの話も飛び込んできますんや。もちろんワシ

東本京史　「トラちゃん文庫」 「難波侠客伝」日本最後の侠客、大越龍蔵が悪に立ち向かう！ 背中の昇り龍、二の腕のクレマチスを咲かせ男伊達をみせる。 クレマチスは策略の花、さて今日のクレマチスは…… 「趨勢」物事が進みゆくようす、動向、成り行き、時代の趨勢のように使われる。 この小説はフィクションです、実在とは関係ありません。 「趨勢（すうせい）」　　３ 「何で分かりましたん、マトリを知ってる言うことは……」 マトリが疑心の目を向けた。 「じょ、冗談や有りまへんで、 この店に来てた常連客で、 大麻取締法違反で逮捕された男がいてましてな。 通報したんはワシや、 本人をその席に座らせて説教したんやけど、 一度はハマった薬物の道から抜け出すんは大変なことや、 奴も努力はしたんやけど絶つことができんかった。 そこでワシはある提案をした。 薬物を絶つにはム所に入るんが手っ取り早い、 ところが殆どの者が、

東本京史　「トラちゃん文庫」 「難波侠客伝」日本最後の侠客、大越龍蔵が悪に立ち向かう！ 背中の昇り龍、二の腕のクレマチスを咲かせ男伊達をみせる。 クレマチスは策略の花、さて今日のクレマチスは…… 「趨勢」物事が進みゆくようす、動向、成り行き、時代の趨勢のように使われる。 この小説はフィクションです、実在とは関係ありません。 「趨勢（すうせい）」　　２ 「龍蔵ハン戻ったで、やっぱり住吉さんは後利益があるわ。 このお方、マトリ　シンゴさんや。 ひょんな事から知り合いになってな」 「ひょんな事から知り合いに？」 龍蔵が真面目そうな男に目をやった。 歳は三十歳前後やろうか。 「住吉さん、ギョウサンな人でもみくちゃや、 後ろから押してくるしまともに歩けん状態や。 そしたらワテの足がこのマトリはんの足を踏んでしもうたんや。 それも正月用に買うた下駄で思いっきりや。 ワテこの人の顔見てビックリしましたん

東本京史　「トラちゃん文庫」 「難波侠客伝」日本最後の侠客、大越龍蔵が悪に立ち向かう！ 背中の昇り龍、二の腕のクレマチスを咲かせ男伊達をみせる。 クレマチスは策略の花、さて今日のクレマチスは…… 新年おめでとうございます。 「趨勢」物事が進みゆくようす、動向、成り行き、時代の趨勢のように使われる。 この小説はフィクションです、実在とは関係ありません。 「趨勢（すうせい）」　　１ 「おめでとうさん」 道行く人が龍蔵に挨拶をおくる、みんなニコニコ顔や。 「龍蔵さん、住吉さんへ行かへんのかいな？」 お銀が声をかけてきた。 「今日は住吉ハンも稼ぎ時や、 人込みの中へなんか行きとうないわ」 元旦から居酒屋飲んだくれの座敷に座り込んだ龍蔵が答える。 「今日は店も休みやし、鉄っあんと二人でゆっくり飲むわ」 「まぁ正月やし許したるわ、 今年は私の干支やからお参りせなアカンのや」 「何やお銀は酉年か？　どう

東本京史　「トラちゃん文庫」 「難波侠客伝」日本最後の侠客、大越龍蔵が悪に立ち向かう！ 背中の昇り龍、二の腕のクレマチスを咲かせ男伊達をみせる。 クレマチスは策略の花、さて今日のクレマチスは…… 「毀誉褒貶」は本日で完結いたします。 新年からは「趨勢（すうせい）」が始まります。 「毀誉褒貶（きよほうへん）」　　３１　完結編 「帰ってきてたんかいな、紹介するわ。 この方はミナミの龍蔵ハンいうて難波ではちょっとした有名人や。ワテとは、ひょんな事から知り合いになって、 ここんとこ毎日のように飲みに来てくれてるんや。 龍蔵ハン、この人物が私の恩人山中ハンですわ」 「お初にお目にかかります、山口です」 龍蔵も挨拶した。 「龍蔵ハンあんた何の目的でお吉ハンに付きまとうてますんや。障子越しに話を聞いてたら、 三重子と新吉の死に興味があるようやけど、 何回調べても同じや、 ワシが風呂に入ってる間に 階段か

東本京史　「トラちゃん文庫」 「難波侠客伝」日本最後の侠客、大越龍蔵が悪に立ち向かう！ 背中の昇り龍、二の腕のクレマチスを咲かせ男伊達をみせる。 クレマチスは策略の花、さて今日のクレマチスは…… この小説はフィクションです、実在とは関係ありません。 「毀誉褒貶（きよほうへん）」　　３０ 「山口ハンはいつ九州から帰ってきますんや？」 龍蔵がお吉の顔をうかごうた。 「早かったら今日あたり帰ってくるんやないやろか、 あの人が帰ってきたら二人とも年貢の納め時や」 「年貢の納め時とはどう言う意味ですの？ 何かまだ隠してることがありますやろ？ 正直いうてワシがお吉ハンに近づいたんは、 うちに居てるチエちゃんの話に違和感を覚えたからですんや。 遊び友達が姿を見せんようになって淋しいと言いだして、 慕ってる雅之兄ちゃんの話をまとめたら、 何や事件性を感じたんですわ。 特に興味が湧いたんは、 冷蔵庫や冷凍庫

東本京史　「トラちゃん文庫」 「難波侠客伝」日本最後の侠客、大越龍蔵が悪に立ち向かう！ 背中の昇り龍、二の腕のクレマチスを咲かせ男伊達をみせる。 クレマチスは策略の花、さて今日のクレマチスは…… この小説はフィクションです、実在とは関係ありません。 「毀誉褒貶（きよほうへん）」　２９ 「一升瓶で殴ったりしたら即死ですやろ」 「即死なんてもんや無い、 呻き声もあげんと畳の上に崩れたままや。 さすがのワテも慌てましたわ、 温和な山口ハンが新吉を殺すやなんて 考えもせん事でしたんや。 山口ハンいわく、 『ワテから銭をせびってパチンコばっかりしてる道楽者、 お吉ハンが可哀想で見ておれんかった。 そんな気持ちが腹の底にあったもんやから、 ついカットなって殴ってしもうた。 死体が二つになってしもうたけど、 九州から帰ってきたら責任もってワシが処分します。 それまでの間、死体を預かってくれませんか』 「

東本京史　「トラちゃん文庫」 「難波侠客伝」日本最後の侠客、大越龍蔵が悪に立ち向かう！ 背中の昇り龍、二の腕のクレマチスを咲かせ男伊達をみせる。 クレマチスは策略の花、さて今日のクレマチスは…… この小説はフィクションです、実在とは関係ありません。 「毀誉褒貶（きよほうへん）」　　２８ 「いつやったか、山口ハンが夜中に訪ねて来ましてな。 どえらい話を持ち込みましたんや。 四つになる三重子ちゃんが亡くなったんやと言うんです。 話を聞いてみると、風呂に入ろうと誘うたんやけど、 遊びに夢中で入りとう無い言うもんやから、 一人で入ったらしいんです。 のんびり湯船につかって出てきたら、 階段下の板の間に三重子ちゃんが寝てたそうです。 風呂に入りたいんかと声をかけたけど返答が無い、 慌てて肩を揺すっても反応なしや。 急いで救急車を呼ぼうと受話器を取ったんやけど、 昨日の食堂での事が頭をよぎった。 運ち

東本京史　「トラちゃん文庫」 「難波侠客伝」日本最後の侠客、大越龍蔵が悪に立ち向かう！ 背中の昇り龍、二の腕のクレマチスを咲かせ男伊達をみせる。 クレマチスは策略の花、さて今日のクレマチスは…… この小説はフィクションです、実在とは関係ありません。 「毀誉褒貶（きよほうへん）」　　２７ 「エエー？　嘘やろ、何でや何で無いんや。 二人とも手品みたいに消えてしもたがな。 あんた、ワテをビックリさせたろ思て、 どっかに隠しましたんやろ？」 「ワシが何で隠さなあきませんのや、 さっきも言うたように、蟻んこ一匹入ってませんがな」 「……、納得できんな、 扉にチリ紙を挟んだ時は間違い無う有ったんや。 それが二体とも姿を消すなんて……、ひょっとして……」 「どうかしましたんか？　何か心当たりが有りますんか」 龍蔵がお吉ハンの顔をうかごうた。 「まさかの事やけど、ひょっとして山口ハンと違うやろか？ 龍蔵ハ

東本京史　「トラちゃん文庫」 「難波侠客伝」日本最後の侠客、大越龍蔵が悪に立ち向かう！ 背中の昇り龍、二の腕のクレマチスを咲かせ男伊達をみせる。 クレマチスは策略の花、さて今日のクレマチスは…… この小説はフィクションです、実在とは関係ありません。 「毀誉褒貶（きよほうへん）」　　２６ 「あんたバレバレやのに、お口の堅い人や、 そんだけ慎重な人間やったら、 扉を開けるときはもっと注意しなはれ」 お吉ハンが怒ってるんか判断がつかん。 「何や機嫌が悪そうやけど、 冷蔵庫と冷凍庫の扉を開けたんは謝ります、 喉が渇いたんで、 ビールでも入ってないかと思うて開けましたんや、 そやけど空っぽや。 冷凍庫に氷でも入ってないかと開けたけど、 こっちも空っぽや。 ワシは諦めて酒屋へ行って酒を買うてきましたんや。 そんなんどない説明しますの？ お口が堅い言われても何のことやらさっぱり分かりませんわ」 「どこま

東本京史　「トラちゃん文庫」 「難波侠客伝」日本最後の侠客、大越龍蔵が悪に立ち向かう！ 背中の昇り龍、二の腕のクレマチスを咲かせ男伊達をみせる。 クレマチスは策略の花、さて今日のクレマチスは…… この小説はフィクションです、実在とは関係ありません。 「毀誉褒貶（きよほうへん）」　　２５ 「やっぱり、あんたも信用できんな」 旅行から帰ったお吉が叫んだ。 「ワシが信用できませんのか？　それは何でですんや」 龍蔵が探りを入れた。 「あんだけ冷蔵庫や冷凍庫を開けんと誓うたのに、 あんた開けましたがな」 「……」 龍蔵には、何でバレたんか思い当たらなかった。 「ワテな、あんたをテストするつもりや無かったけど、 冷蔵庫と冷凍庫の扉に、 小そう切ったにチリ紙にマジックで 黒の目印つけてドアに挟んどいたんや。 扉を開けたらチリ紙が落ちる仕組みや。 見て見なはれ、 冷蔵庫も冷凍庫の扉にチリ紙が挟まってません

東本京史　「トラちゃん文庫」 「難波侠客伝」日本最後の侠客、大越龍蔵が悪に立ち向かう！ 背中の昇り龍、二の腕のクレマチスを咲かせ男伊達をみせる。 クレマチスは策略の花、さて今日のクレマチスは…… この小説はフィクションです、実在とは関係ありません。 「毀誉褒貶（きよほうへん）」　　２４ 「何もこんな手間取らさんでも、 死体の隠し場所は分かってたんや。 そんでもワシが見つけて察に届けたら、 殺人容疑がかかってしまう。 工作するんは当然かもしれん、 そやけど、ワシと店で飲んだ日から今日で三日目や、 死体を隠すんに二晩しか無かったことになる。 年老いた女が、 二晩で二体のを埋めるんは容易なことやない。 床を外して二人分の穴を掘るんは大変や。 二人も殺してたら死刑になる確率が高い。 死刑の文字を背中に背負うたら、 想像もできん力が湧くんやろか」 龍蔵は思いを巡らせた。 床を開けた痕跡は見つからんか