0. 新海誠の監督最新作『天気の子』は、「セカイ系」を2019年現在を舞台にポジティブに捉え直した作品だという評を多く見かける。 「君と僕の(恋愛)物語の正否が社会という中間項を抜きにして『世界の危機』のような抽象的な問題と直結してしまう」 これが「セカイ系」の標準的な定義といえるが、本作に肯定的な評者は(「セカイ系」という言葉を使っている/いないに関わらず)本作から抽出した上記のような図式をいわゆる「トロッコ問題」へと敷衍し、「個人を犠牲にする『社会』よりも個人を選ぶ」という結末に落とし込んでいる点、またそれ以上に、理屈抜きでただ一人の大切な「君」を求める「僕」の若いエネルギーを肯定的に描いている点を概ね評価しているようだ。 『天気の子』を評価するには上記のような読みしか許されていないかと言えば、もちろんそうではない。しかし強力にそのような読解をアシストする作りになっていることも間違いな