聴覚の記憶を辿り直すことを未知の音場の構築に結びつけてゆく。それは様々な場面で様々な人が成してきたことである。デヴィッド・シルヴィアンは記憶の奥を幾層も巡ってゆく旅路の中でこれまでに幾多の未知を提示し開拓してきたが新作『マナフォン』は完全な即興演奏によるトラックを聴きそこで歌を湧き立たせることで作り出された。恐るべきことである。直感を研ぎ上げていくことで出現する歌。大友良英やフェネスらの紡ぎ出し発光させた音はゆらめき膨張し淡く溶けてゆきもする。音の中に分け入ってゆくシルヴィアンは過去も未来も現在も区別のない柔らかい歌の空間を鮮やかに切り開いてみせた。これも重要な音楽の未来である。