知識コミュニケーションとしての出版は、本質的にモノよりソフトウェアのビジネスに近いのだが、数世紀続いた機械印刷パラダイムのもとで、人々はよい本をつくる「製造」業と錯覚してきた。E-Bookは出版がソフトウェアに近づいたことにほかならないが、そのことの理解は容易ではない。E-Bookに対する日本の関係の戸惑いと見当違いは、すべてを光輝あるモノづくりのメタファーで理解しようとするゲシュタルトからきているのだと思う。しかし、これを乗り越えなければ日本の出版の明日はない。 個がシステムをデザインできるソフトウェア・パラダイム 本は機械技術の、E-Bookはソフトウェア技術の産物だが、機械とソフトウェアは性格的にかなり異なる。最大の違いはこういうことだろう。機械は大規模複雑になるほど、設計も製造も個人の手には負えなくなるのに対して、ソフトウェアにはそうした限界がない。もちろん、ソフトウェアの複雑化は