■遺伝特性を補う望ましい社会とは 人は最初は白紙状態で、環境や努力ですべてが決まるという思想は、ここ数世紀の不合理な差別撤廃や教育整備などに大きな役割を果たしてきた。でもこの思想には大きな問題がある。まちがってるんだもの。人間の相当部分は遺伝的に決まる——それがこの本の主張だ。 著者のピンカーは人間進化の観点から言語や視覚を分析するハーバード大学の俊英で、科学解説書の名手としても高名だ。遺伝の重要性ならお手のもの。でも本書のすごさは「人は最初は白紙」という過度の環境重視的な思いこみが有害だと明言し、その提唱者たちをなで切りにしたことだ。かれらの議論は真実から目を背け、問題の真の解決を遅らせてしまう、と。 たとえば暴力。人間は本来は平和的だという説がある。暴力や戦争は文明の病であり、幼児体験や暴力的なメディアのせいで広まる、と。でも先住民族は実はどれもえらく暴力的だし、メディアと暴力もほとん