我輩は低所得者である。肩書きなどない。 どこで稼げばよいかとんと見当がつかぬ。何でも薄暗いじめじめしたところでダラダラ仕事していたことだけは記憶している。吾輩はここではじめて上司というものを見た。しかもあとで聞くとそれはダメ上司という上司中で一番劣悪な種族であったそうだ。このダメ上司というのは時々我々を捕まえて残業休出させるという話である。しかしその当時は何という考えもなかったから別段恐ろしいとも思わなかった。ただ彼の掌に載せられてスーと持ち上げられた時何だかフワフワした感じがあったばかりである。掌の上で少し落ち着いてダメ上司の顔を見たのがいわゆる上司というものの見始めであろう。この時妙なものだと思った感じが今でも残っている。