JINSEI STORIES 滞仏日記「ママの小さなたからもの」 Posted on 2019/03/23 辻 仁成 作家 パリ 某月某日、去年の秋だったか、東京のライブハウスでのこと。終演後、一人の女性が出口で僕を待ち構えていた。「あの、お仕事の依頼をしたく、伺いました」僕は驚いた。普通、そういう依頼は個人事務所を通して連絡が入る。でも、その人はライブ会場までやって来て、当然チケットを買ってライブをご覧になった上で、僕を待ち伏せた。最近はメールでの仕事依頼が多くなった。昔は手紙での依頼が普通だったが、これも時代の流れだから別に構わないのだけど、ライブ会場で仕事を依頼されたのは生まれてはじめての経験となった。その人は「早川書房の早川と申します」と名刺を取り出した。「早川書房の早川さんということは、もしかして、ご一族の方でしょうか?」すると彼女は恐縮されて、「私は一編集者として今ここにいます
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