ブックマーク / www.aozora.gr.jp (57)

  • 寺田寅彦 ピタゴラスと豆

    幾何学を教わった人は誰でもピタゴラスの定理というものの名前ぐらいは覚えているであろう。直角三角形の一番長い辺の上に乗っけた枡形(ますがた)の面積が他の二つの辺の上に作った二つの枡形の面積の和に等しいというのである。オルダス・ハクスレーの短篇『若きアルキメデス』には百姓の子のギドーが木片の燃えさしで鋪道(ほどう)の石の上に図形を描いてこの定理の証明をやっている場面が出て来るのである。また相対性原理を設立したアインシュタインが子供のときに独りでこの定理を見付けたとかいう話が伝えられている。この同じピタゴラスがまた楽音の協和(ハーモニー)と整数の比との関係の発見者であり、宇宙の調和の唱道者であったことはよく知られているようであるが、この同じピタゴラスが豆のために命を失ったという話がディオゲネス・ライルチオスの『哲学者列伝』の中に伝えられている。 このえらい哲学者が日常堅く守っていた色々の戒律の中

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    hootoo3 2021/12/06
  • ピタゴラスと豆 (寺田 寅彦)

    地球物理学者。漱石の門下生でもあり、吉村冬彦の筆名で作品を書いた。数多くの随筆があり、いまでも多数の読者に愛読されている。 「寺田寅彦」

    ピタゴラスと豆 (寺田 寅彦)
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    hootoo3 2021/11/24
  • 須川邦彦 無人島に生きる十六人 - 青空文庫

    これは、今から四十六年前、私が、東京高等商船学校の実習学生として、練習帆船琴(こと)ノ緒(お)丸(まる)に乗り組んでいたとき、私たちの教官であった、中川倉吉(なかがわくらきち)先生からきいた、先生の体験談で、私が、腹のそこからかんげきした、一生わすれられない話である。 四十六年前といえば、明治三十六年、五月だった。私たちの琴ノ緒丸は、千葉県の館山湾(たてやまわん)に碇泊(ていはく)していた。 この船は、大きさ八百トンのシップ型で、甲板から、空高くつき立った、三の太い帆柱には、五ずつの長い帆桁(ほげた)が、とりつけてあった。 見あげる頭の上には、五の帆桁が、一に見えるほど、きちんとならんでいて、その先は、舷(げん)のそとに出ている。 船の後部に立っている、三木めの帆柱のねもとの、上甲板に、折椅子(おりいす)に腰かけた中川教官が、その前に、白い作業服をきて、甲板にあぐらを組んで、いっし

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    hootoo3 2021/08/23
  • 北條民雄 いのちの初夜 - 青空文庫

    駅を出て二十分ほども雑木林の中を歩くともう病院の生垣(いけがき)が見え始めるが、それでもその間には谷のように低まった処や、小高い山のだらだら坂などがあって人家らしいものは一軒も見当たらなかった。東京からわずか二十マイルそこそこの処であるが、奥山へはいったような静けさと、人里離れた気配があった。 梅雨期にはいるちょっと前で、トランクを提(さ)げて歩いている尾田は、十分もたたぬ間にはやじっとり肌が汗ばんで来るのを覚えた。ずいぶん辺鄙(へんぴ)な処なんだなあと思いながら、人気の無いのを幸い、今まで眼深にかぶっていた帽子をずり上げて、木立を透かして遠くを眺(なが)めた。見渡す限り青葉で覆われた武蔵野で、その中にぽつんぽつんと蹲(うずくま)っている藁屋根(わらやね)が何となく原始的な寂蓼(せきりょう)を忍ばせていた。まだ蝉の声も聞こえぬ静まった中を、尾田はぽくぽくと歩きながら、これから後自分はいった

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    hootoo3 2021/01/06
  • 芥川龍之介 西方の人

    わたしは彼是(かれこれ)十年ばかり前に芸術的にクリスト教を――殊にカトリツク教を愛してゐた。長崎の「日の聖母の寺」は未だに私の記憶に残つてゐる。かう云ふわたしは北原白秋氏や木下杢太郎(もくたらう)氏の播(ま)いた種をせつせと拾つてゐた鴉(からす)に過ぎない。それから又何年か前にはクリスト教の為に殉じたクリスト教徒たちに或興味を感じてゐた。殉教者の心理はわたしにはあらゆる狂信者の心理のやうに病的な興味を与へたのである。わたしはやつとこの頃になつて四人の伝記作者のわたしたちに伝へたクリストと云ふ人を愛し出した。クリストは今日のわたしには行路(かうろ)の人のやうに見ることは出来ない。それは或は紅毛人たちは勿論、今日の青年たちには笑はれるであらう。しかし十九世紀の末に生まれたわたしは彼等のもう見るのに飽きた、――寧(むし)ろ倒すことをためらはない十字架に目を注ぎ出したのである。日に生まれた「わ

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    hootoo3 2020/11/07
  • 中谷宇吉郎 雪は資源である

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    hootoo3 2016/07/04
  • 長岡半太郎 アインシュタイン博士のこと

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    hootoo3 2014/04/18
  • H・P・ラヴクラフト H.P.Lovecraft 大久保ゆう訳 ニャルラトホテプ NYARLATHOTEP

    ニャルラトホテプ……這い寄る混沌……残ったのはもうわたしだけ……この何もない空を聞き手にして、お話ししようと思います。 そもそものことは、はっきりとは思い出せません。でも何ヶ月か前です。みんなひどくぴりぴりしていました。世の中がひっくり返ろうとしているところへきて、なぜだか強く身に危険を感じて不安になる――あたりが、どこもかもが危なかったのです。夜をただわけもなく怖がる、そんな極端なときにしか感じないたぐいの〈危険〉です。思い出せば、道を歩くみなさん真っ青な浮かない顔で、何かの前触れだとか、これから先のこととかささやくのですが、どなたもわざわざ繰り返したり、聞いたことにうなずいたりはなさいませんでした。国中はこれからとんでもない罰を受けるかのようで。星空の奥の深い闇から吹き流れる冷ややかな風に、人は暗くうら寂しいところで震えていました。四つの季節がめぐるなか、悪魔のような異変が起こる――時

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    hootoo3 2014/04/04
  • 小川未明 塩を載せた船

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    hootoo3 2014/02/21
  • 吉川英治 親鸞聖人について

    先ごろは、親鸞聖人の大遠忌があり、今夜も親鸞聖人についてご関心の深い、またご信仰の深い皆さまのお集まりと思うのでありますが、私はそうした皆さまにお話し申し上げるほどの何も持っていないんです。だのに、かつて小説の上で親鸞を書き、その映画で錦之助君が親鸞をやったりした。あのような小説を物知り顔に書きましたのも、いまにして思えば、若気のあやまちであります……。 小説親鸞や錦之助君の親鸞を見ると、端麗、いかなる九条兼実とその姫君、玉姫の前でも恋しそうな青年に思われますが、まったくはそうではありません。 どんな風ぼうの人かというと、願寺に、そしてめったに公開されないそうですが、田中一松さんからこの前、大きく拡大した画像を一ついただきましたが、これは「鏡の御影」というものだそうです。聖人がまだ在世七十歳のころ藤原信実の子息の、俗称袴殿(はかまどの)といわれる人が、専阿弥陀仏ともいわれた人ですが、この

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    hootoo3 2013/07/26
  • 知里真志保 あの世の入口 ――いわゆる地獄穴について――

    アイヌ語の地名を調べていると、海岸、または河岸の洞窟に、あの世へ行く道の入口だというものが意外に多い。それらの洞窟は、だいたい次のような名で呼ばれている。

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    hootoo3 2013/07/05
  • 知里真志保 アイヌ宗教成立の史的背景

    座長(小林高四郎)では知里さんにお願いします。 知里(真志保)私ははじめ、言語から見たいわゆる貞操帯の起源、というような演題でお話しようかと思い、いささか資料も準備して来たのでありますが、はからずも先刻に河野広道氏がその問題にふれられ、ご親切にも私の持参した新資料―樺太アイヌのチャハチャンキ(chax-chanki)までも自発的に紹介の労をとって下さったので、その問題は一応ひっこめることにいたします。貞操帯に関する論議はなかなかデリケートな点にもふれなければなりませんし、かたがた病床から起きだして来たばかりの私にとってはそのようなよけいな神経を使うのはいささか重荷でもありますので、ここではアイヌに存在した呪術的仮装舞踊劇のことをお話して、神話の起源にふれ、神の観念の形成される史的背景を明らかにし、さいきん問題になっているイオルやパセオンカミの問題にもふれてみたいと存じます。 アイヌの社会に

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    hootoo3 2013/07/01
  • 和辻哲郎 地異印象記

    大正十二年ごろ関東地方に大地震がある、ということをある権威ある地震学者が予言したと仮定する。その場合今度のような大災害は避けられたであろうか。大教(おおもときょう)は二、三年前大地震を予言して幾分我々を不安に陥(おとしい)れたが、地震に対する防備に着手させるだけの力はなかった。しかしそれは大教が我々を承服せしめるだけの根拠を示さなかったからである。もし学者が在来の大地震の統計や地震帯の研究によって大地震の近いことを説いたならば、人々はあらかじめあの震害と火災とに備えはしなかったであろうか。 自分は思う、人々は恐らくこの予言にも動かされなかったろうと。なぜなら人間は自分の欲せぬことを信じたがらぬものだからである。死は人間の避くべからざる運命だと承知しながらも我々の多くは死が自分に縁遠いものであるかのような気持ちで日々の生を送り、ある日死に面して愕然(がくぜん)と驚くまでは死に備えるという

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    hootoo3 2013/06/03
  • 柳田國男 日本の伝説

    は伝説の驚くほど多い国であります。以前はそれをよく覚えていて、話して聴かせようとする人がどの土地にも、五人も十人も有りました。ただ近頃は他に色々の新に考えなければならぬことが始まって、よろこんで斯(こ)ういう話を聴く者が少なくなった為に、次第に思い出す折が無く、忘れたりまちがえたりして行くのであります。私はそれを惜むの余り、先ず読書のすきな若い人たちの為に、このを書いて見ました。伝説は斯ういうもの、こんな風にして昔から、伝わって居たものということを、このを読んで始めて知ったと、言って来てくれた人も幾人かあります。 日に伝説の数が其(その)様に多いのなら、もっと後から後から別な話を、書いて行ったらどうかと勧めて下さる方もありますが、それが私には中々出来ないのです。同じような言い伝えを、ただ沢山に並べて見ただけでは、面白い読みものにはなりにくい上に、わけをきかれた場合にそれに答える用

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    hootoo3 2013/05/15
  • 折口信夫 橘曙覧

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    hootoo3 2013/04/11
  • 2017年01月01日「土地とともにあるパブリック・ドメイン」- そらもよう

    今年も青空文庫の誕生日である7月7日がやってきました。 今日までその活動を27年間地道に続けて来られたのは、実作業で支えてくださった多くのボランティアのみなさんと、収録された作品をさまざまに楽しみ、その可能性を広げてきてくださったユーザのみなさんのおかげです。 あらためて御礼申し上げます。ありがとうございます。 さて、2023年1月1日から継続して進めて参りました「式年遷宮」ですが、ようやく新規データベースサーバの引っ越しの目処がつきました。 元旦でお知らせしていた日7月7日からの運用には間に合いませんでしたが、この8月から実データを構築中の新データベースに移し、そして運用を試験して大きな問題がなければ、この秋には引っ越しを完遂したいと考えています。 (もちろん試用しながら都度バグフィックスを行う必要が生じますので、夏のあいだにタイミングを慎重に見極めなければなりません) ともあれ、お

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    hootoo3 2012/12/25
  • 小川未明 お姫さまと乞食の女

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    hootoo3 2012/12/13
  • 北大路魯山人 納豆の茶漬け

    納豆の茶漬けは意想外に美味いものである。しかも、ほとんど人の知らないところである。通間といえども、これを知る人は意外に少ない。と言って、私の発明したものではないが、世上これを知らないのはふしぎである。 ここでいう納豆の拵(こしら)え方とは、ねり方のことである。このねり方がまずいと、納豆の味が出ない。納豆を器に出して、それになにも加えないで、そのまま、二の箸でよくねりまぜる。そうすると、納豆の糸が多くなる。蓮から出る糸のようなものがふえて来て、かたくて練りにくくなって来る。この糸を出せば出すほど納豆は美味くなるのであるから、不精をしないで、また手間を惜しまず、極力ねりかえすべきである。 かたく練り上げたら、醤油を数滴落としてまた練るのである。また醤油数滴を落として練る。要するにほんの少しずつ醤油をかけては、ねることを繰り返し、糸のすがたがなくなってどろどろになった納豆に、辛子を入れてよく

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    hootoo3 2012/11/22
  • 北大路魯山人 猪の味

    猪の美味さを初めてはっきり味わい知ったのは、私が十ぐらいの時のことであった。当時、私は京都に住んでいたが、京都堀川の中立売に代々野獣を商っている老舗があって、私はその店へよく猪の肉を買いにやらされた。 私の家は貧乏であったから、猪の肉を買うと言っても、ごくわずかな買い方をしていた。まあ五銭ぐらい持って買いに行くのが常であった。もっとも、当時は牛肉ならば鹿の子(東京でいう霜降りロースに当る)が三銭位で買えた時代であるから、五銭出すというのは、猪の肉だけに奮発したわけなのである。 だが、それにしても猪の肉をわずか五銭ばかり買いに行くというのは、豪勢な話ではない。ただ肉をいたいというだけなら、その金で牛肉がもっと買えるのだから、そうしたらよさそうなものだが、牛肉の時には三銭買い、五銭持った時には猪を買いにやらされたところをみると、私の養父母も、どうやら美を愛した方だったのだろうと、今にして思

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    hootoo3 2012/11/09
  • 小川未明 小さな弟、良ちゃん

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    hootoo3 2012/08/29