松尾はノートPCのパームレストに右手をつき、溜めた息を吐いた。 独り言がこぼれていることに、彼は気付かなかった。 ただ、独り言がこぼれても問題なかった。 彼がいるのは、自宅の仕事部屋だったからである。 2020年9月、松尾は、大きな問題を抱えていた。 2020年に入り、突如として世の中を襲った新型コロナウイルス。 人々に不安と恐怖を与え、生活だけでなく、経済にも大きなダメージをもたらした脅威の存在。 松尾が代表を務める株式会社ウェブライダーにも、新型コロナウイルスの影響はじわじわと迫っていた。 多くの人はこう語る。 「オンラインを主戦場とするIT企業なら、新型コロナウイルスの影響は少ないのでは?」と。 たしかに、IT企業の一部は、オンラインに軸足を移す多くの消費者のニーズに応え、その売上げを伸ばしつつある。 しかし、松尾が代表を務めるウェブライダーは、その逆だった。 新型コロナウイルスの影