短歌を愛する32歳の男性が昨年、この世を去った。中学と高校で、いじめを受けた。精神的な不調は卒業後も続く。その末の自死。非正規の仕事をこなし、恋をし、懸命に生きた。このほど出版された初めての歌集には、つらさだけでなく、人への優しさがこもった作品が収められている。 東京都の萩原(はぎはら)慎一郎さん。第1志望の中高一貫校に入学したが、いじめが中1から始まった。 両親によると、所属する野球部の監督から怒鳴られておどおどする様子を、複数の部員にからかわれた。差別的な言葉で呼ばれる。ちぎったミカンの皮を古語辞典の間に入れられる。のちに、振り返って詠んだ。 《屑籠(くずかご)に入れられていし鞄(かばん)があればすぐにわかりき僕のものだと》 親しい友人がいた。しかし、その友人は周囲から「何であんなやつと付き合っているの」と言われ、離れていった。 短歌と出会ったのは高2の秋。俵万智さんの歌を読み、希望を