指紋登録制度を通して「近代」を問い直す試み。産業革命と交通の発達によって自由に移動する 莫大 ( ばくだい ) な労働力が生じ、これをいかに固定化し、管理していくかに近代国家の命運が託されていた。 その意味でも指紋法が英国のインド統治で初めて実用化され、「満洲国」で先進的に実施されていたというのは象徴的だ。「国家」を作ってはみたものの、自由に移動する「国民」の実態がつかめない。管理しようとすればするほど不定型なありようが浮き彫りにされてしまう。そのプロセスは、本書の見所でもある。 戦後日本の始発期の指紋管理のエキスパートは、実は「満洲国」の当事者たちなのだった。世を騒がせた外国人指紋 押捺 ( おうなつ ) 制度もまた、植民地時代の「国民」管理の残影にほかならなかったのである。 叙述はデジタル化時代の生体認証制度にまで及ぶ。「国民国家」の論理がすでに変質した現在、われわれの前にはあらたな「
![『指紋と近代』 高野麻子著 : ライフ : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)](https://cdn-ak-scissors.b.st-hatena.com/image/square/21ce3ee1c3df1293cbebde2cdb69844b52038708/height=288;version=1;width=512/http%3A%2F%2Fwww.yomiuri.co.jp%2Fimg%2Fyol_icon.jpg)