今のノリを脱して変身 かくも大胆かつ明晰(めいせき)、それでいてやわらかく信念のこもった思考はまるでダンスだ。一瞬、哲学書らしからぬ「改行の多用」と「ゴシックによる強調」にとまどう。しかし実にリズミカルに言葉が、読む者の心にインストールされていくのだ。「粘り強さ」だけが思考じゃない。 勉強論の形を借りた変身論である。なぜ「勉強」が「変身」なのか。勉強とは「あるノリから別のノリへ引っ越すこと」だと著者は言う。人は、会社なり学校なりの特定の環境において、その環境のお約束にしたがって、つまり「ノって」生きている。勉強とは、そこから抜け出して別の発想や別の振る舞い方、つまり別のノリを獲得することだ。新しいノリを知ってしまったら、もうかつてのノリには戻れない。つまり勉強には自己破壊がつきものなのだ。だからそれは「成長」ではない。「変身」なのだ。 しかし現状を俯瞰(ふかん)せよというメタ的・批判的な姿
![『勉強の哲学』 千葉雅也著 評・伊藤亜紗(美学者・東京工業大准教授) : ライフ : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)](https://cdn-ak-scissors.b.st-hatena.com/image/square/8c974709f95fcafbdeeb252866ac593f68d84cdf/height=288;version=1;width=512/http%3A%2F%2Fwww.yomiuri.co.jp%2Fphoto%2F20170501%2F20170501-OYT8I50068-L.jpg)