このあいだ東京でね [著]青木淳悟[掲載]2009年5月3日[評者]奥泉光(作家、近畿大学教授)■物語から離れて都市の風景描く 近代小説はさまざまなスタイルのなかで書かれ、読まれてきたわけであるが、そうしたスタイルの違いを越えて、小説というジャンルをジャンルたらしめている基本的な構造は何かと問うてみる。小説が小説であるための条件は何か? 小説は言葉で書かれ読まれる物語である。というのは一つの有力な答えであり、実際ほとんどの小説作品がこの定義に過不足なくおさまるだろう。一方で、小説は物語そのものではなく、むしろ物語からはみ出したり逸脱したりする部分にこそジャンルの本質があり、真の面白さがあるのだとする見解も早くから提出されてきた。物語から離れたところで小説を打ち立てようとする試みもいろいろとなされて、これは調性から逃れて音楽が作られ出した、新ウィーン楽派をはじめとする、20世紀西洋音楽の歴史