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  • 『スフィンクスは笑う』 安部ヨリミ (講談社文芸文庫) - 書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

    →紀伊國屋書店で購入 安部公房の母、ヨリミが新婚早々安部公房を妊娠中に書いた小説である。 ヨリミは1899年、旭川のはずれの開拓地東高鷹村に生まれ、東京女子師範学校(現在のお茶の水女子大)に進むが、社会主義団体のビラを校内にはりだしたために放校になる。1923年、24歳の時に同郷の安部浅吉と結婚するが、押しかけ結婚だったという説もあり、相当はねっかえりのお嬢さんだったようである。浅吉は満州医科大学附属病院の医師だったが、たまたま東京の栄養研究所に留学中だった。新婚の二人は府下滝野川区で暮らしていたが、9月に関東大震災にあう。結婚妊娠、地震があいついだ慌ただしい年に書かれたのが書である。 『スフィンクスは笑う』という題名からまず思いつくのはスフィンクスの謎かけである。「朝は四足、昼は二足、夜は三足の生き物はなにか」という例のあれである。 答えは人間ということになるが、書にも三つの

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    iteki 2012/06/07
  • 『アメリカ文学における「老い」の政治学』金澤 哲 編著(松籟社) - 書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

    →紀伊國屋書店で購入 「老いを受け止める」 長い学生時代を経て、わたしが就職をしたのは29才の時だったが、そのとき真っ先に思ったのは、「あと36年しか働けない! はやく家かマンション買って住宅ローン組まなきゃ!」ということだった。実際に住宅ローンを抱えるようになるのはそれから数年後のことだが、なぜわたしが「持ち家」にこだわったかというと、その昔、確かまだわたしが二十代の始め頃、あるドキュメンタリー番組をたまたま見たのがきっかけだった。 それは、老人の住宅確保に関する問題を扱った番組で、年老いた一人暮らしの女性が何軒もの不動産屋に賃貸契約を断わられている様子が画面に映し出されていた。孤独死や家賃滞納を懸念する不動産屋の対応と説明されていたと記憶しているが、わたしが感じたのは理不尽な対応をする不動産屋に対する怒りというよりも、こうした寄る辺ない人間に対して社会が見せる容赦無き態度への恐怖だった

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    iteki 2012/04/05
  • 『不純なる教養』白石嘉治(青土社) - 書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

    →紀伊國屋書店で購入 『不純なる教養』は、フランス文学者の白石嘉治によって書かれた大学と思想をめぐるテクストをまとめた書物である。大学あるいは大学という運動、そしてその無償化を中心に、フランスの大学ストライキ、札幌・トリノの大学サミット、洞爺湖G8サミット、日学生支援機構とブラックリストの会、そして、ネグリ、デカルト、スティグレール、笙野頼子が論じられていく。 まずなによりも、高等教育が無償であるという考え方そのものは、いわば常識の範疇に属すことを確認しておきたい。じっさいヨーロッパ諸国では、大学の学費は無償か比較的低額に抑えられており、また米国における奨学金の充実は良く知られているだろう。普通(ユニバーサル)選挙権と同様に、大学(ユニバーシティ)で成人として教育を受ける権利は経済的な制限があってはならないものである。(「不純なる教養」) 昨今、大学や知をめぐる議論は様々な分野で盛んであ

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    iteki 2010/05/10
  • 『白の闇』ジョゼ・サラマーゴ(NHK出版) - 書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

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    iteki 2010/04/06
  • 『グリーン・カルテ』川上亜紀(作品社) - 書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

    →紀伊國屋書店で購入 「病気と小説」 「グリーン・カルテ」がついにになった。十年前に文芸誌でつり込まれるように読んだときのその不思議な力は、今回の再読でもしっかり確認できた。あのときはなぜつり込まれたのかよくわからなかったが、こんどは多少は説明できそうな気がする。 筆者の同僚に江川さん(仮名)という人がいる。江川さんは病気が出てくる小説を軽蔑している。「病気をネタに書いてやれ」という狙いを嗅ぎ取っただけで鼻白むという。まじめに読もうという気もしなくなる。学生の卒論も、病気小説を論じているものには冷たいようだ。 しかし、江川さんと同僚になったおかげで筆者はかえって、「そう言われてみると自分は病気小説がかなり好きだ」と自覚するようになった。探偵小説、病気小説、思弁小説とならんでいたら、筆者はまちがいなくまずは病気小説をえらび取るだろう。何が楽しくて、わざわざ病気の話を読むのか。 病気のことが

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    iteki 2010/04/01
  • 『新しいカフカ ―「編集」が変えるテクスト』 明星聖子 (慶應義塾大学出版会) - 書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

    →紀伊國屋書店で購入 『1冊でわかるカフカ』の訳者解説で明星聖子氏はカフカの遺稿出版が大変なことになっていると書いていたが、具体的にそれがどういうことかを「編集文献学」という新しい学問の視点から述べたのが書である。 書は卓抜なカフカ論であるとともに日最初の編集文献学の紹介だが(編集文献学について知りたい人は明星氏が訳した『グーテンベルクからグーグルへ』を併読すると言い)、まずは基的なところからおさえておこう。 カフカが生前発表した作品は短編集二冊分にすぎず、『失踪者(アメリカ)』、『城』、『訴訟(審判)』の三大長編はもちろん、「ある戦いの記録」、「万里の長城」などの短編、さらには厖大なメモや書簡類などはすべて遺稿として残された。カフカは親友で作家のマックス・ブロートに原稿と書類の焼却を遺言して死んだが、ブロートはカフカの遺志に反して遺稿を守りとおし、世界恐慌とナチス台頭という困難な

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    iteki 2010/03/05
  • 『読まず嫌い』千野帽子(角川書店) - 書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

    →紀伊國屋書店で購入 読み巧者は幼いころからの虫、と思っていたら、「児童文学に漂う『お子さんには山葵抜いときました』的な感じが気持ち悪くて」小学生時代は漫画以外のはほとんど読まなかったという著者が小説に目ざめたのは十三歳のとき、きっかけは筒井康隆だった。 この、ませているのか奥手であるのかわからぬ少年は、いったん読みはじめると「小説には自分が興味を持てない分野がいっぱいあること」と気づく。 ミステリが嫌い、SFが嫌い、時代小説が嫌い、歴史小説が嫌い、伝奇小説はブームがきたせいで傷、ファンタジーを読むなら映画のほうがいい、ライトノベルより漫画のほうがいい。さらには純文学、私小説・青春小説恋愛小説もだめ。「人生観を開陳されると、『文学臭が強い』と苦手に思って」しまう。「宮澤賢治、太宰治、サリンジャー。詩歌なら石川啄木も中原中也も、もう全部がアレルゲン」という「筋金入りの読まず嫌い」

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    iteki 2009/11/02
  • 『夏みかん酔つぱしいまさら純潔など 句集「春雷」「指輪』鈴木しづ子(河出書房新社) - 書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

    →紀伊國屋書店で購入 ある女性俳人の遺したふたつの句集が一冊となった。 「春雷」より 畦(くろ)ゆくやマスクのほほに夜のあめ 霜の葉やふところに秘む熱の指 うすら日の字がほつてある冬の幹 冬雨やうらなふことを好むさが 昃(かげ)る梅まろき手鏡ふところに 春雷はあめにかはれり冬の対坐 あめ去れば月の端居となりにけり かたかげや警報とかるる坂の下 防諜と貼られ氷室へつづく廊 銹あらき鋳物の肌と夏草と いちじくに指の繃帯まいにち替ふ あきのあめ衿の黒子をいはれけり 湯の中に乳房いとしく秋の夜 菊活けし指もて消しぬ閨の燈を さかりゆくひとは追はずよ烏瓜 窓をうつしぐれとほのきくづす膝 冬の月樹肌はをしみなく光らふ 「指輪」より にひとしのつよ風も好し希ふこと 秋燈火こまかくつづるわが履歴 寒の夜を壺砕け散る散らしけり(きづつく玻璃) ひらく寒木瓜浮気な自分におどろく 春雪の不貞の面て擲ち給へ 肉感

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    iteki 2009/10/13
  • 『名残りの東京』片岡義男(東京キララ社) - 書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

    →紀伊國屋書店で購入 電信柱から縦横にのびる電線、そのむこうにそびえるビルと青空。ささくれた羽目板やペンキの剥げた雨どい。荒物屋の店先に吊された亀の子だわしとほうき。日にやけて痛みきった均一台の中央公論社『世界の文学』。埃を被った商店の日よけや文字の欠けた看板。色褪せた愛国党の貼り紙。にぎり寿司やオムライスの品サンプル。手書きのメニュー。夕暮れの商店街にともる提灯。 東京は細部にあふれかえった街だ。たくさんの人たちの生活、たくさんのものや情報やお金の流れによって積み重なったこうした細部を、片岡義男は被写体としてえらんだ。それらは、かつてはくらしのなかで生き生きと機能し、あるものはその役目を終えて放置され、やがて消えてゆく。 僕が撮影した景色のおよそ半分はすでに消え去って跡かたなく、したがってそれらの景色は写真のなかにしかなく、かろうじて現存する景色も、じつは消えていく東京の名残りなのだ。

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    iteki 2009/09/28
  • 『猫毛フェルトの本』蔦谷香理(飛鳥新社) - 書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

    →紀伊國屋書店で購入 よく、切った爪を捨てずに保存する性癖の持ち主がいるが、あれはいったいどういう心理に基づいているのだろう。切られた爪は自分の一部、それをゴミと一緒に葬り去るのは忍びない、という強烈な自己愛のせいなのか、それとも、たんぱく質というものへのこだわり(なんとなく、栄養もありそうだし、いつか何かの役にたちそう)という貧乏性ゆえなのか。 私は自分の爪も皮も垢も、さっさと見えなところへ流してしまいたい質だが、わが飼いに関しては別で、抜けたひげや乳歯を大事に大事に保存している。さらに最近、ブラッシングして抜けた毛を、紙袋にためていったら、たいへんな量になってしまい、捨てるのが惜しくなり、以前、犬の毛で毛糸を紡いでビキニを作っていた女性、というのをテレビで観たことを思い出し、だったらの毛でも、とフェルトを作ってみた。 ふつうは自分で毛繕いをする。するとしぜん、自分の毛を大量に飲み

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    iteki 2009/08/04
  • 『山梔 (くちなし)』野溝七生子(講談社文芸文庫) - 書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

    →紀伊國屋書店で購入 「肉系少女の曙」 久しぶりに空恐ろしい小説を読んだ。怖ろしいのは冷血無比な殺人者でもなく、霊界・幽界の魑魅(ちみ)魍魎(もうりょう)でもない。芳香を放つクチナシを母の髪に添えようと、その繊細な小枝に届かぬ手を伸ばす少女こそが怖ろしい。 『山梔(くちなし)』は、作者の心理的自伝と思しき作品で、阿字子という稀有な名を持つ少女の幼少期から女学校卒業頃までを記している。題名となるクチナシは、冒頭にしか現れないが、届かぬ花を手折るのは、閉居耽読を旨とし「魔法使」と綽名される美しい女性である。妖艶さを醸す「魔法使」は、夕暮れ時に予言する。 「私は世間の母親に云ってやるわ。あなた方の娘が、私みたいなものに、ならないように御用心なさいってね。でも大変大変お気のどくなけれど、阿字ちゃんは、どうも私みたいになりそうなのよ。あなたは、私の幼い時の鏡みたいだわ。どうも、どうもお気のどくね。

    『山梔 (くちなし)』野溝七生子(講談社文芸文庫) - 書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG
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    iteki 2009/05/14
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