その怒声は部屋の外にまで響き渡り、忙しなく動き回っていたスタッフが思わず足を止めて振り返るほどだったという。直後、声の主は、歌舞伎公演の期間中でありながら、荷物をまとめて部屋を飛び出していった──。 アジア初の没入型エンターテインメント施設と称した「IHIステージアラウンド東京」(江東区)で、3月4日から4月12日まで『新作歌舞伎 ファイナルファンタジーX』(以下、『FFX』)が上演された。 ステージアラウンドというネーミングの通り、巨大なお盆に乗った観客席が360度回転し、周囲をステージとスクリーンが取り囲む同劇場は、従来では表現し得なかった壮大な舞台空間だ。だが、来年解体されることが決まっており、ラスト公演に選ばれたのが『FFX』だった。 2001年に発売され世界的ヒットを記録した人気ゲームの歌舞伎化を熱望したのは、同公演の企画・演出を担い、主人公・ティーダ役で出演した歌舞伎役者・尾上