(口頭発表原稿於美学会、関西大学13.Oct.96 ) 1.アートという「場所」の消滅 90年代に入って、文化やアートを取りまく状況はますます混沌とし始めてきた。冷戦構造の解体と、メディアのグローバル化・ネットワーク化に伴うコミュニケーション構造の根源的な変容は、地球上の至るところでいわば文明論的と言っていいほどの大きな文化的地殻変動を引き起こしつつある。 もちろん、20世紀に入ってからあらゆる芸術はずっと混沌の中にあったと言えるかもしれない。いや、それどころか何千年も前から芸術を作り出そうという行為はいつだってそうした混沌の中にあったという声さえ聞こえてくるかもしれない。 優れた芸術は常に混沌という名の母から生まれてくるというわけだ。だが、ここで言っている混沌とは、個々の芸術作品を制作することに伴うさまざまな困難のことを言っているのではない。そうではなく、現在混沌とし、曖昧なものとなり始