近・現代の住居と、古代の住居との根本的な相違は、前者が窓や扉を通して外を眺める造りになっているのに反し、古代の住居には、外を眺めるという発想がまったくないことである。彼らは、ひたすら内を眺める。そして、内に向かった眼の行き着くところ――そこにあるのは竈(つまりは家の神の祭壇)である。窓はなく、煙出しさえない。採光と換気は、屋根を開いて行われた。 《ホメロスの世界》 ホメロスの叙事詩に登場する英雄たちは、いずれも、小なりといえども、一国一城の主である。したがって、彼らの「館」は、(日本の「大宅(おほやけ)」と同じように)"megaron"、ないし、その複数形で表される。「大きな部屋の集まった住居」といった表象であろう。したがって、館の中心をなす広間も、"megaron"の語で表される。この広間は、客人をもてなす応接間であり、食事部屋であり、竈(hestia)が中心に位置する台所でもあった。