安倍晋三元首相が銃撃され死亡した事件の輪郭が少しずつ明らかになってきた。「事件は図らずも日本社会の持つ矛盾をあらわにした」。事件をそう読み解くのは、凶悪事件の加害者・被害者家族の苦悩を描いた小説も手がけ、常々政治に厳しい目を向けてきた小説家の平野啓一郎さん(47)である。 「いつか起きるのでは」懸念現実に 実は平野さん、近未来を描いた最新作「本心」で「暗殺ゲーム」にはまった主人公の同僚が前財務相をドローンで暗殺しようとする場面を描いた。「いつか政治家を狙ったテロが起きるのではと懸念していました」。平野さんがそう話し始めた。当初、襲撃対象は首相の設定だったが、小説が現実に及ぼす影響を考え、変更したという。 「2008年に起きた秋葉原無差別殺傷事件と相前後して、自分の苦境と社会への不満を『無差別殺人』という形で表現する事件が何度も起きてきました。16年の津久井やまゆり園事件、21年の小田急車内