さて本文に入るに先だって、私はここにいささか、歴史的考察の必要を述べておきたいと思います。 私は多年この歴史的知識の普及の必要を感じまして、機会あるごとにこれが宣伝を試みているのであります。しかるに近ごろは、しばしばこれに対して非難の声を聞くようになりました。その非難の主なるものは大体左のようなものであります。 これらはいずれも一面の理由があります。中にも現実の問題に直面して、その対策を講ずることは、今日の場合もっとも急を要することであり、またもちろんもっとも必要なことではありますが、しかしそれはいわゆる対症療法ともいうべきもので、熱の高い患者に氷をあてがい、心臓の弱った患者に強心剤を与えるようなものであります。それを怠ってならぬことはむろんでありますが、その一方に病気の原因を調査して、根本的治療を施すことがどうして不必要でありましょう。今日の差別観念は、一つに因習から来ているもので、その