前回の長編小説である「騎士団長殺し」から6年ぶりに出た新作長編がこの「街とその不確かな壁」だ。「騎士団長殺し」でも感じたことだが、この作品は新作であると同時に集大成的な意味合いの強い作品だと思う。(騎士団長殺しのレビューはこちら) 著者のあとがきにも書いてあるが、この小説は自分の作品のリメイク、セルフリメイクだ。初回が1980年に発行された「街と、その不確かな壁」。文芸誌には収録されたものの、村上春樹自身がこの作品を失敗作だとして刊行していない。それをリメイクしたのが、1985年に発行された「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」。そして2023年、著者が74歳現在で出版されたのがこの新作「街とその不確かな壁」だ。この三作品をすべて読んだことがある。話は違うが同じモチーフに挑戦した作品という印象だ。なぜそんなことをしたのかといえば、おそらく著者にとってこの「壁に囲まれた静かな街で夢読