薄暗い照明、黒色の土のグラウンド――1人の選手がボーっと薄く浮かび上がるように立っていた。 雨上がりでグラウンドには、まだあちらこちらに水たまりが残っており、その選手はスパイクもソックスも泥だらけになりながら、ただ黙々とボールを蹴り続けていた。 高校を卒業し、大学入学と同時にサッカージャーナリストになることを夢見て筆者が活動を開始した頃に見た風景だ。 強豪校としてメキメキと頭角を現し始めていた桐光学園の“ナンバー10”中村俊輔を見るべく、そのサッカー部のグラウンドを訪れていた。当時、まだ大学生だった私はグラウンドの中での取材ができず、孤独の中で練習に励む中村を、同じく1人で遠くから見つめていた。 全体練習が終わり、多くの部員達が引き上げてからも彼はグラウンドに残り、FKの練習をひたすら行っていた。 1人でボールを数個抱えて一箇所に集め、ゴールに向かってただただFKを蹴る。 やがて蹴るボール