音楽には影も形もない。 大気の中にふわりと浮かび、次の瞬間には消えてしまう。 ベートーヴェンが「(願わくば)心から出て、心に伝わるように」と言ったように、音楽は「心」から「心」へ伝達する「何か」なのだが、それが伝わるには「伝達する媒介」が必要だ。 そもそも音楽を存在させている「音」というものが、空気の振動であり、「空気」という媒介なくしては存在し得ないということもある。 もちろん「心」は決して「空気の振動」ではないが、振動に「変換」されることで、他者に伝達可能な「音楽」というものに昇華する。考えてみれば、不思議なものだ。 かくして、その「振動」を生み出すのが「楽器」、そして、それを制御するのが「演奏家」ということになる。いずれも振動の本体ではあるものの「音楽の本体」ではなく、音楽を伝達する(もっとも根源的な)「メディア(媒体)」ということになるだろうか。 そして、その楽器の音や演奏家の演奏