未曽有の危機と文学の想像力 COVID-19の流行は、現代科学の死角からの不意打ちだった。 人類は新しい病原体と戦うための治療薬やワクチンを持たないだけでなく、その流行を抑えるための直接的なエビデンスも持っていなかった。エビデンス不在の病態が、エビデンスの蓄積をはるかに上回る速度で拡散し流行する、その恐怖。現代科学ががっちりと根を張った今日の世界とて決して安全地帯ではないことを、我々は思い知らされることになった。 現代科学がその体制を持ち直すまでのあいだ、巷では多種多様な真理が乱立した。真理と真理は時に激しく闘争した。「専門家」を名乗る者同士の意見が、真っ向から対立することもしばしばあった。どの意見を支持すべきかは、一般人にはもちろんのこと、医療者でさえ判断しがたい状況が続いた。いや、状況はいまもそれほど変わらないかもしれない。文字通り、世界中が混乱に陥った1年間だった。 未曽有の危機に直