そのころの私には、つま先から頭のてっぺんまでたちの悪い疲労がひたひたに満ちていた。さまざまな種類の、不可逆的に関与しあった、発酵してなにかもっと邪悪なものになりかけた疲労だ。疲労と私のあいだには境目がなく、疲労が私の実体であるように思えた。どうにか仕事をして自宅に帰るなり、玄関にへなへなと座りこんでしまう。眠って目がさめると息がつまって苦しく、しゃくりあげながら身支度をする。 交通事故にあっても、運が悪いと思わなかった。それが不幸であるということがうまく理解できないのだ。折れた骨がつながっても、とくに感想を思いつかなかった。 その日は陽ざしが雲をさいて地上に落ちてくる夏のはじまりで、予定も義務もひとつもない、美しい土曜の午後だった。でもそんなことは私には関係がなかった。 電話が鳴った。ずいぶんと会っていない知りあいだった。彼女は言った。こんにちは、急にごめんね、事故にあったって聞いたものだ