口を開けて唖然としている年配の女性、思わず足を止めた外回りのセールスマン、少し前まで馬鹿騒ぎしていたものの今は言葉もなく呆然としている女学生達。まさに時が止まったようだった。 その時の光景を今でもたまに思い出す。1986年のことで私は21歳だった。当時、私は将来が見えないまま、街をさまよっていた。2度の大病を経て、何事にもやる気を失い、進学も諦め、たまにフリーターとして短期間、働いてはいたものの定職につかず、ただ毎日を過ごしていた。 その日も私は行き場もなく街角に立ち、肩をすぼめて煙草を吸っていた。街を行き交う人は、そんな冴えない若者の姿を意識することすらなく、足早に私の前を通り過ぎていった。 突然、周囲の量販店に陳列されたテレビ群が一斉にあるニュースを伝え始めた。衝撃的な見出しが複数のテレビ画面一杯に映し出された。ある女性アイドルが、ビルから飛び降りたというのである。 ざわめきと共に、街