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ブックマーク / dain.cocolog-nifty.com (40)

  • 死ぬときに思い出す傑作『イギリス人の患者』

    死ぬときに思い出す小説の一つ。 あれを読めば良かったとか、これがまだ途中だったとか、未練は必ずあるはずだ。どんなに読んでも足りることはないから。そんな後悔の中で、エピソードや描写を思い出し、読んでよかったと言える作品の一つが、『イギリス人の患者』だ。 映画が公開されたときだから、20年以上前に読んだのだが、いま再読しても美しい。詩的で情緒豊かに紡がれる、四人の男女の破壊された人生の物語だ。 あらすじはシンプルだ。 第二次世界大戦の終わり、イタリア北部の半ば廃墟となった修道院が舞台となる。そこで生活を共にするのは、看護婦のハナ、泥棒のカラヴァッジョ、インド人の工兵のキップ、そしてイギリス人の患者となる。人生のわずかな期間にすれ違う男女が、自身の半生を思い出す。 ただし、けっして読みやすい、ストレートなお話ではない。 時系列は無警告で前後するし、エピソードの粒度や解像度はバラバラだ。後になって

    死ぬときに思い出す傑作『イギリス人の患者』
    kaionji
    kaionji 2024/06/24
  • 「ミスを罰する」より効果的にミスを減らす『失敗ゼロからの脱却』

    ミスや失敗をなくすため、ヒューマンエラーに厳罰を下すとどうなるか? 一つの事例が、2001年に起きた旅客機のニアミス事故だ。羽田発のJAL907便と、韓国発のJAL958便が駿河湾上空でニアミスを起こしたもの。幸いにも死者は無かったものの、多数の重軽傷者が出ており、一歩間違えれば航空史上最悪の結果を招いた可能性もあった。 事故の原因は航空管制官による「便名の言い間違い」にあるとし、指示をした管制官と訓練生の2名が刑事事件に問われることになる。裁判は最高裁まで行われ、最終的には2名とも有罪となり、失職する。判決文にこうある。 そもそも、被告人両名が航空管制官として緊張感をもって、意識を集中して仕事をしていれば、起こり得なかった事態である [Wikipedia:日航空機駿河湾上空ニアミス事故] より 芳賀繁『失敗ゼロからの脱却』は、これに異を唱える。 事故は単一の人間のミスにより発生するので

    「ミスを罰する」より効果的にミスを減らす『失敗ゼロからの脱却』
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    kaionji 2024/06/16
  • なぜ、あの人は、あやまちを認めないのか?

    「謝ったら死ぬ病」をご存知だろうか? どんなに証拠を突き付けても、絶対に非を認めない人だ。 プライドの高さや負けず嫌いといった性格的なものよりもむしろ、過ちを認めることが、自分の命にかかわるものだと頑なに信じている。すなわち、「謝ったら死ぬ」という病(やまい)に取り憑かれている―――そんな人がいる。 もちろん、想像力が衰えて視野が狭く、無知な自分を認めたがらないような頑固者なら、可哀そうに思えども理解はできる。 だが、第一線で活躍する知識人や学者で、ものごとを客観視できるはずなのに、この病気に罹っている人がいる。それどころか、その優れた知性を用いてコジツケを考えだし、論理を捻じ曲げ、のらりくらりと言い逃れる。 なぜ、あの人は、あやまちを認めないのか? ずばりこのタイトルの書を読んだら、疑問が氷解した。 それと同時に、「謝ったら死ぬ病」は私も罹患していることが分かった。「あの人」ほどは酷く

    なぜ、あの人は、あやまちを認めないのか?
    kaionji
    kaionji 2023/11/18
  • ルーク・スカイウォーカーの初登場までに17分もかかった理由『脚本の科学』

    面白い物語の法則として「主役はできるだけ早く登場させて印象づけろ」というものがある。 にも関わらず、最初の『スター・ウォーズ』はこのルールを破っている。小さな宇宙船を追跡する超大型戦艦から始まり、悪の親玉に捕まるお姫様を描き、辛くも脱出するロボットのコンビを描く。 メイン・キャラクターであるルーク・スカイウォーカーが出てくるのは、映画が開始して17分が経過してからになる。 一方、『スター・ウォーズ』のオリジナルの脚では、4ページ目からルークが紹介されるシーンがある。ほぼ冒頭から登場するのだが、このシーンは映画に入っていない。脚家のジョージ・ルーカスは慣習に従ってルークを冒頭で出しているが、監督のジョージ・ルーカスはそうしなかった。 なぜか? 様々な説が考えられるが、『脚の科学』によると、「その必然性が無かったから」になる。 いきなり始まる怒涛のバトル&追跡劇で息つく暇もない観客は「逃

    ルーク・スカイウォーカーの初登場までに17分もかかった理由『脚本の科学』
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    kaionji 2023/05/27
  • ファンタジーの最高傑作『氷と炎の歌』

    夢中にさせて寝かせてくれず、ドキドキハラハラ手に汗握らせ、呼吸を忘れるほど爆笑させ、ページを繰るのが怖いほど緊張感MAXにさせ、いしばった歯から血の味がするぐらい怒りを煽り、思い出すたびに胸が詰まり涙を流させ、叫びながらガッツポーズのために立ち上がるほどスカッとさせ、驚きのあまり手からが転げ落ちるような傑作がこれだ。 この世でいちばん面白い小説は『モンテ・クリスト伯』で確定だが、この世でいちばん面白いファンタジーは『氷と炎の歌』になる。 書いた人は、ジョージ・R・R・マーティン。稀代のSF作家であり、売れっ子のテレビプロデューサー&脚家であり、名作アンソロジーを編む優れた編集者でもある。 短篇・長編ともに、恐ろしくリーダビリティが高く、主な文学賞だけでも、世界幻想文学大賞(1989)、ヒューゴー賞(1975、1980)、ネビュラ賞(1980、1986)、ローカス賞(1976、1978

    ファンタジーの最高傑作『氷と炎の歌』
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    kaionji 2022/11/20
  • 新訳で劇的に面白くなった名著『新版 歴史とは何か』(E.H.カー)

    歴史とは現在と過去との終わりのない対話である ・世界史とは各国史をすべて束ねたものとは別物だ ・すべての歴史は「現代史」である 名言だらけのE.H.カーの名著。 昔は「教養を身につけるため」と有難がっていた。今でも教養課程の必読書とされているかもしれない。文系理系関係なく読むべき名著といえば、『理科系の作文技術』とこれだろう。 ところが、新訳を読むと、がらりとイメージが変わった。「教養を身につける」という体裁よりも、むしろ、ユーモア満載、毒舌たっぷり、ハラを抱えて大笑いできる一流の講義になる。 論敵をあてこすり、酷評し、嘲笑する。死者を皮肉り、(歴史学も含めた)人文学を軒並み張ッ倒し、強敵は名指しで祭り上げ、しかる後にメッタ斬り。 母親の膝のうえで学んだ子どもっぽいナイーヴな学説だとか、成績が「可」ばかりの学生みたいな史観だとか、めずらしく階級的感覚の低い発言だとか、嫌味と毒舌のオンパレ

    新訳で劇的に面白くなった名著『新版 歴史とは何か』(E.H.カー)
  • 炎上プロジェクトの火消し術『プロジェクトのトラブル解決大全』

    飛び交う怒号、やまない電話、不夜城と化した会議室。 集められたホワイトボードが衝立のように立ち並び、全員が立って仕事をしている(座る間が無いから)。週をまたぐとメンバーの疲弊が目に見えはじめ、月を跨げば一人二人といなくなり、仕事場はお通夜となる。 トラブルの無いプロジェクトは存在しない。炎上するかボヤで済むかの違いなだけで、大なり小なりトラブルは付きものである。 自分が所属する部署は大丈夫かもしれない。だが、隣のブースだとか、同期がいるチームで炎上しているのを横目で見ながら仕事する、なんてことがある。ホワイトボードは目につくし、大きな声はイヤでも耳に入ってくるので、プロジェクト炎上⇒鎮火するパターンなんてものも、なんとなく伝わってくる。 消火作業のイロハとか、怒った客をあしらう方法、リカバリ計画の立て方なんてのも、肌感覚で分かってくる。 そして、トラブルの扱いが分かってくる頃には、「応援

    炎上プロジェクトの火消し術『プロジェクトのトラブル解決大全』
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    kaionji 2022/07/24
  • オデュッセイアを読むと何が起きるのか具体的に述べる

    100年前、米国で刊行された世界文学全集で、「モテるための古典」「1日15分であなたも教養人に!」と謳っている(※1)。 「人生を豊かにする教養」とか「必読の名著」といった教養を売り物にするがあるが、びっくりすほど何にもない。 書店でパラ見してみるがいい。どこからか引き写した簡単なまとめだけで、その名著とやらを読んで、人の何がどう変わったのか、ほとんど書いていないから。せいぜい、アイスブレイクのネタになったとか、「多面的な視点」みたいなふわっとした言い回しが関の山だ。 『オデュッセイア』を読んで起きたこと ここでは、反例として、わたしが古典を読んで、何がどう変わったかを述べる。できるだけ具体的に、ホメロス『オデュッセイア』を読んで起きたことを書く。 英雄オデュッセウスが故郷に帰る冒険譚で、行く手を阻む怪物や魔法使いを、知恵と勇気と女神様で乗り切る。ラストの、ライバルたちとの対決は、虐殺

    オデュッセイアを読むと何が起きるのか具体的に述べる
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    kaionji 2020/11/15
  • 面白い物語の「面白さ」はどこから来るのか? 「物語の探求」読書会

    面白い小説・マンガ・映画ゲームに没頭しているときは分からない。だが、お話が終わった後、あらためて、なぜそれを面白いと思ったのかは、気になる。 その物語の「面白さ」はどこから来たのか 誰にでもウケるのか(「面白さ」は一般化できるのか) 「面白さ」は再現できるのか そんな疑問を抱えていたら、面白い読書会があったので、参加してきた。 「物語の探求」読書会(ネオ高等遊民サークル) タケハルさん(脚家) スケザネさん(シナリオライター) ネオ高等遊民さん(哲学Youtuber) Dain(ブロガー) 小説漫画映画、舞台、ゲームなどジャンルの垣根を越えて、「物語」について考えるオンライン読書会。たとえば、「ラストで感動させる仕掛けはどう使われているか」「物語世界に巻き込む外的焦点化とは何か?」など、物語を創る側の視点から考える。 第1回の課題 『物語の力 物語の内容分析と表現分析』 高田明典

    面白い物語の「面白さ」はどこから来るのか? 「物語の探求」読書会
  • 辺境と文明が逆転する『遊牧民から見た世界史』

    中国がなぜ中国かというと、世界の中心を意味するから。 中国皇帝が世界の真ん中にあり、朝廷の文化と思想が最高の価値を持ち、周辺に行くにつれ程度が低くなり、辺境より先は蛮族として卑しむ華夷思想が根底にある[Wikipedia:中華思想]。 しかし、蛮族とされている遊牧民から見ると、舞台はユーラシア全体となる。遊牧生活によって培われた軍事力で圧倒し、スキタイ、匈奴の時代から、鮮卑、突厥、モンゴル帝国を経て、大陸全域の歴史に関わる。中心と周辺が反転し、中華は一地域になる。 視点を反転することで、いままで「常識」だと考えてきたことが揺らぎ、再考せざるを得なくなる。歴史を複眼的に眺めるダイナミズムが面白い。『遊牧民から見た世界史』は、その手がかりを与えてくれる。 「モンゴル残酷論」の誤り たとえば、「モンゴル残酷論」これは誤りだとする。 モンゴル帝国といえば、暴力、破壊、殺戮というイメージが付きまとう

    辺境と文明が逆転する『遊牧民から見た世界史』
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    kaionji 2020/08/10
    チンギス・ハーンは4000万人殺したけど、支配地域を考えれば僅かといえるよね
  • 人類を平等にするのは戦争『暴力と不平等の人類史』

    貧富の差は拡大する一方。一向に格差の是正が進む気配はない。 日に限った話ではない。北米、南米、中国、東南アジア、アフリカ……世界中、至るところで格差は絶賛拡大中だ。格差の拡大は、人類社会の宿命なのだろうか? 古今東西の不平等の歴史を分析した、ウォルター・シャイデル『暴力と不平等の人類史』を読むと、これは事実ではないことが分かる。たしかに貧富の不平等はあるが、これを一掃する平等化が果たされる。人類の歴史は、不平等の歴史でもあるが、平等化の歴史でもあるのだ。 書の目的は、この平等化のメカニズムを解明するところにある。データと史料とエビデンスでもって緻密に徹底的に分析する。 不平等のメカニズム まず著者は、不平等は人間社会の基的特徴だという。人類が糧生産を始め、定住化と国家形成を行い、さらに世襲財産権を認めて以降、不平等が進むのは既定の事実だと述べる。なんとなくそうではなかろうかで済ませ

    人類を平等にするのは戦争『暴力と不平等の人類史』
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    kaionji 2019/09/13
  • リアル君の名は。おっさんが女の子の匂いを買ってきて身につけたら、たまらない背徳感を味わえた

    「女の子の匂い」をご存じだろうか? 「臭い」ではなく「匂い」である。 よく言われる、せっけんの香りではない。デオドラントや柔軟剤、コンディショナー、乳液、ハンドクリーム、化粧水、オーラルケア、ファンデなどの香料、フレグランスでもない。それらは、女の子から漂ってくる様々な匂いを構成する要素にすぎない。 そうした、外づけの化合物ではなく、女の子自身から発する匂いだ。ココナッツミルクや白桃を想起させる、何とも言えない、「匂い」というより、「あの感じ」といえば分かるだろうか。心地よく、はっとする感じ、あるいは身体的にオンになる感覚である。 これは、わたしの変態性が生み出した妄想にすぎぬ、と考えていた。しかし、優れた先人たちの研鑽と研究の末、「女の子のいい匂い」とは、以下の物質であることが判明している。 ・高級脂肪酸と安息香酸エストラジオール ・ラクトンC10、C11 では、女の子の匂いを再現するこ

    リアル君の名は。おっさんが女の子の匂いを買ってきて身につけたら、たまらない背徳感を味わえた
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    kaionji 2019/05/22
  • 『眼の誕生』はスゴ本

    「世界の見えかたが一変する」という意味で、目からウロコの一冊。 先入観やバイアスは、明示されるまで気づかない場合が多い。例示されて初めてハッとする。それまで、「見えている」と思っていたものが、実は「見て」すらいなかったり、「見える=存在する」という思い込みの強さに囚われていたことに気づく。 見えていない ≠ 存在しない わたしの「世界の見えかた」を変えたのが、爆撃機の話だ。第二次大戦中、敵機の攻撃から生還した爆撃機を調査した統計学者が、ある提言をした。それは、「被弾箇所(赤ドット)ではなく、空白部分を強化すべし」というのである。なぜなら、空白箇所に被弾した機は、そもそも生還しなかったからという理屈だ。 「生存バイアス」とも呼ばれるこの理屈、ポイントは「見えている」という時点で何らかの選択がされていることだ。したがって、「むしろ見えていないものは何か?」という観点から「それはなぜか?」を考え

    『眼の誕生』はスゴ本
    kaionji
    kaionji 2019/01/23
  • 女の子の匂いを再現する

    女の子の匂いをご存知だろうか? 漂ってくる「匂い」というより、すれ違うときにクる「あの感じ」といったほうがいい。あるいは、部屋に入ったとき、女の子がいる(いた)空気のようなもの。大事なのはカッコ()の中で、視覚的ものではない。「さっきまで女の子がいた部屋」でも分かるし、建物内ならある程度たどるのは可能だ。 最初は、私の変態的妄想力が産み出した幻臭かと思った。「女の子って、どうしてあんなにいい匂いがするのだろう」と悶々したことがある。が、同志の意見を総合し、私の経験を重ねると、どうやら妄想ではなさそうだ。 それは、いわゆる「せっけんの香り」だろうか。石鹸そのものに限らず、中高生が滴らせているシャンプーやボディケア香や、デオドラントのメチルフェノール系の匂いなどが相当する。そうした、後付けの合成香料をもって、我々は「女の子の匂い」とみなしているのだろうか。 たとえば、「ビオレさらさらパウダーシ

    女の子の匂いを再現する
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    kaionji 2017/10/29
  • 『土木と文明』はスゴ本

    土木から見た人類史。めちゃくちゃ面白い。 土木工学とその影響という切り口で世界史を概観する。テーマは、都市、道路、橋、堤防、上下水道、港湾、鉄道などに渡り、テーマごとに豊富な事例で紹介する。土木技術の発展なしには文明も発達せず、また文明の発展につれて土木技術も発達してきた。そうした土木工学と文明の関わりを歴史的に串刺しで見ることができる。 大きなものから小さなものまで、人が手がけてきた土木事業は、それこそ星の数ほどある。それをどうやって整理するか。書は、そのとき直面した問題(治水、防衛、流通、疫病対策等)と、利用できるリソース(人・技術・時間)、そして成し遂げられた結果(土木事業)という観点で整理しているのが素晴らしい。 面白いことに、問題と対策という視点で眺めると、時代や地域を超えた普遍性が現れてくる。異なる時代・地域の人々が、それぞれに知恵を絞り、そのときに手に入るリソースを駆使した

    『土木と文明』はスゴ本
  • 人の命は金になる『凶悪 ある死刑囚の告発』

    人を殺し、その命を金に換えるビジネスモデルが詰まっている。 借金にまみれた人生の破綻者、家族からも見放されたリストラ対象者、土地つきボケ老人、生命保険に入っている死にぞこないを見つけてきては酒に溺れさせ、面倒をみてやり、小金を貸してやる。最終的には、土地や預金通帳などを手にいれ、土地は転売してサヤをとる。不動産がなければ保険金だ―――良心ないし魂を売り渡せば、数百万が億になる老人ビジネス。 死刑囚が、獄中から、告発する。被害者は複数で、首謀者は娑婆にいる―――という話なのだが、設定だけ聞くと、よくできたフィクションだ。絞殺死体を焼却炉で燃やす件や、純度の高いウォッカを無理やり飲ませて殺す場面など、非常にフィクションであって欲しいのだが、恐ろしいことに、[上申書殺人事件]のルポルタージュだ。 告発者は元ヤクザで殺人犯の後藤。裏切りか報復か、抑えた筆致でも骨髄まで染みる恨み言に、読んでるこっち

    人の命は金になる『凶悪 ある死刑囚の告発』
  • トヨタ・バッシングの正体『アメリカ型ポピュリズムの恐怖』

    アメリカトヨタ叩きについての「もやもや」が晴れた。これは、アメリカンリスクの教科書として読まれるべきスゴ。 そのジャイアニズムやダブスタにはちゃんと(構造的な)理由があることが分かる。なぜヒステリックな反応をしたのか、原因判明にもかかわらず、どうしてケジメをつけられないか理解できる。同時に、トヨタの大人の対応と、是々非々バランス感覚の絶妙さに唸らされる。さらに、アウディ、トヨタの次がどこであれ、どんな対応を取ればよいか教訓が得られる。 2009~2010年の「トヨタ急加速疑惑」によるトヨタバッシングは異様だった。メディアの扇情報道がオレモオレモ苦情のループを呼んでヒートアップする一方、トヨタを蹴落とす陰謀論がまことしやかに語られていた。どこまでが「事実」で、どこからが「意見」なのか日のメディアを探しても、「グローバル経営感覚の欠如」や「トヨタの油断や驕り」など、自虐的な報道ばかり。後

    トヨタ・バッシングの正体『アメリカ型ポピュリズムの恐怖』
    kaionji
    kaionji 2013/01/26
    アウディ叩きなんてあったんだ
  • シンプルな人類史「スプーンと元素周期表」

    面白いの探し方を教えよう。 図書館限定だが、的中率は100パーセントだ(ソース俺)。面白いかそうでないかは、もちろん好みによる。読書経験やそのときの興味、コンディションによっても左右される。だが、誰かを夢中にさせたなら、あなたを虜にするかもしれない。手に取る価値は充分にある。 では、「誰かを夢中にさせた」をどうやって見つけるか?書店の新刊と違って、図書館なら、ちゃんとその跡が残っている。 それは、の「背」。のてっぺん(天)から背を眺めてみよう。少し斜めになっているはずだ。を開くと、表紙に近いページが引っ張られ、背がひしゃげる。を閉じると、引っ張られたページが戻ろうとする。つまり、一気に読まれたの背は、ひしゃげたまま戻らなくなる。途中で放り出されたり、中断をくり返したなら、新刊のように真っ直ぐなまま。 試みに、ちょい昔のベストセラーを見るといい。気の毒なくらいひしゃげている

    シンプルな人類史「スプーンと元素周期表」
  • 暁美ほむらの慟哭「紫色のクオリア」

    「まどかマギカの種」と教えてもらって手にする。 書は、真っ二つに割れている。前半は、「人間がロボットに見える少女」の話だし、後半は、「その少女の親友が彼女を救けようとあがく」話になる。なるほど、後半は、まどかマギカをホーフツとさせる設定が見え隠れする。 特に、どうやっても救えない助けられない瀕死で微笑む手遅れ状態のまどかに向かって銃口を向けながら「う゛ーーーっ!!」と叫んだ暁美ほむらの咆哮を、確かに共有できる。後半の主人公に移入して、あの、身を揉むような絶望をシンクロする。 ただ、誰かを助けること+「時」やり直すこと、たくさんの可能性をくり返し試し続けること……といった設定だと、湯水のように使われる設定になる。うる星とドラえもんとハルヒのゴッタ煮のなかに、アルフレッド・ベスターやシュレディンガー、哲学的ゾンビのネタが混ぜ込んである。書いた人、「この世の果てで恋を唄う少女YU-NO」を泣

    暁美ほむらの慟哭「紫色のクオリア」
  • 「ヴァギナ」はスゴ本 【全年齢推奨】

    知ってるつもりのヴァギナが、まるで違ったものに見えてくる。 のっけからのけぞる。モザイクかかっているものの、ヴァギナそのものが誇らしげに表紙に掲げている(遠目だとちゃんと認識できる)。表紙だけでなく、子を産むヴァギナや、常態のヴァギナなど、普通では見られない写真や図版も豊富にある。写真だけでなく、科学や宗教、歴史、神話と伝承に、文学と言語、人類学、芸術の幅広い資料から徹底的に調べ上げている。 そして、偏見と妄想をとっぱらったヴァギナを多角的・広角的に紹介する。同時に、ヴァギナに対する文化的・科学的バイアスを指し示すことで、どれだけ歪んだヴァギナ・イメージに染まっているかをあぶりだす仕掛けになっている。これを読むことで、男女問わずヴァギナ観がガラリと変わることを請合う。 まず、神話や伝承、民俗学では、恐れ敬われ、魔よけともなる力強い姿が紹介される。さまざまな神話や伝承が示す、着衣をまくりあげ

    「ヴァギナ」はスゴ本 【全年齢推奨】