アドルフ・ヒトラーの評伝『ヒトラー 虚像の独裁者』(岩波新書)が刊行された。新書にしては分厚めの同書、どのように読めば内容をより深く理解することができるのか。日独を中心としたメディア史を専門とする京都大学教授の佐藤卓己氏が解説する。 ヒトラーと「世代」 この不安定な時代に、信頼できるコンパクトなヒトラー評伝が刊行されたことをまず喜びたい。著者・芝健介(1947-)は「あとがき」をその恩師・西川正雄(1933-2008)が訳したG・W・F・ハルガルテン『独裁者』(岩波書店・1967)の「擬似革命独裁」論の魅力から書き起こしている。 もちろん、戦前のベストセラー、澤田謙『ヒットラー伝』(大日本雄弁会講談社・1934)を嚆矢としてヒトラー存命中からその評伝は日本でも読まれてきた。しかし、歴史研究者によるヒトラー評伝が日本で書かれ始めるのは1960年代以降のことである。 本書の主要参考文献に名前が