長いこと、頭の中でもやもやしていたことが、『甦る「ゴンドラの唄」――「いのち短し、恋せよ、少女」の誕生と変容』(相沢直樹著、新曜社)のおかげで、すっきりした。 というのは、私の好きな「命短し、恋せよ乙女 赤き唇 あせぬまに 熱き血潮の 冷えぬまに 明日の月日は ないものを」という「ゴンドラの唄」の源流はハンス・クリスチャン・アンデルセンの『即興詩人』らしいという情報に接し、これまた大好きで、何度も読み返している『即興詩人』にその該当部分を発見できない自分に苛立っていたからである。 著者の粘り強い探索によって、「もともとイタリアのヴェネツィアで歌われていたという里諺(小歌)をデンマーク人のアンデルセンが半自伝的作品(『即興詩人』)に取り込み、そのドイツ語訳を(森)鴎外がやや恣意的に日本語に訳したものをもとに焼き直して作られた詩が、ロシアの小説(イワン・セルゲーヴィチ・ツルゲーネフの『その前夜