ナチス・ドイツが政治宣伝を意味する「プロパガンダ」に力を入れたのはよく知られている。北朝鮮や「イスラム国(IS)」もしかり。 とはいえプロパガンダが威圧的とは限らない。辻田真佐憲『たのしいプロパガンダ』は娯楽性の高い「楽しいプロパガンダ」こそがもっとも効果的だと喝破する。<民衆はそのエンタメを楽しんでいるうちに、抵抗することすらできず、知らず知らずのうちに影響され、特定の方向へと誘導されてしまう>ような。 日中戦争時、陸軍省新聞班の清水盛明中佐は「宣伝は娯楽が大切」派の代表選手で、情宣活動の必要性を詳細に説いた。海軍省軍事普及部の松島慶三なる人物が軍歌の作詞や宝塚少女歌劇団の軍国レビューの原作を担当した。ロシア民謡やクラシック音楽を利用した旧ソ連、ディズニー・アニメを活用した第2次大戦中の米国、抗日をテーマパークやゲームに変える現在の中国……。具体的な事例には事欠かない。 けれども、本書で