(文春新書・1100円) 精神医療の試みとして「回帰」する「対話」 2022年に上梓(じょうし)された大著『力と交換様式』の解説書。本書はさしあたり、そのように位置づけることもできる。近年、ジャレド・ダイアモンドやユヴァル・ノア・ハラリらによる人類史がベストセラーになっているが、『力と交換様式』は、その哲学版とみることもできる。ただしダイアモンドやハラリよりもはるかに明晰(めいせき)で、それゆえの難解さがあった。本書は柄谷自身のほか、大澤真幸、渡邊英理らの「解説」によって、平易かつ立体的な理解が可能になっている。 著者は、人類史を交換様式の発展の歴史としてとらえようとする。マルクスは歴史を決定づける要因として「経済的下部構造」、すなわち生産様式を挙げた。柄谷はそれに代わって交換様式を重視し、様式をA~Dの四つに分類する。すなわちA:互酬(ごしゅう)(贈与と返礼)、B:服従と保護(略取と再分