ジークムント・フロイトが唱えた性をめぐる基本定理は、その死後85年を経ても、現代の数多くの議論に影響を与え続けている。 フロイトの著作は画期的であったし、あり続けている。いまわれわれがLGBTQコミュニティと呼ぶ人々に着目した点では、なおさらそうだ。 だが、学問的な注目を受けるのは、たいていがその男性の同性愛の概念であり、女性の同性愛をめぐる彼の考えが議論されることはめったにない。 その理由のひとつは、フロイトの画期的な方法論の中核である症例研究と関わっている。 フロイトはその症例研究で、患者の来歴を分析・解釈して、心理学的な一般原則を説明した。たいがいの学術研究は、有名な5つの症例研究を主眼とする。フロイトはそれぞれにコードネームを付けていた。ドラ、ハンス少年、鼠男、シュレーバー博士、狼男だ。 このリストから抜けているのが、1920年になされた6つ目の症例研究であり、フロイトが最後に完了